《MUMEI》 「超光速だと、時間がゆっくり進むっていうだろ?だから、超光速航法で旅立った宇宙飛行士が地球に帰還すると、本人は現役で変わらないのに、恋人が鬼籍に入っていたという悲劇が起こる」 「もろ、SFだね」 相方のゆるいつっこみが入ったが、構わず続ける。 「宇宙から飛来した隕石と、地球の石とでは流れている時間に、もちろん差がある。世代が違うって訳だ。宇宙からの光ってのは、遠い場所から届くものほど太古の存在だからな。人間だって、育ってきた環境が違うと、時間の流れが個々人で特有なものだろう。実際には時間は皆に平等、科学も然り。だからこそ、タキオンは画期的なんだ」 嶋田が、文庫のページをいつの間にか開いていた。 視線を落としたままなのに、こいつを止めろと促す強い圧力が扉夏に掛かる。命令されていないが、収集がつかなくなる前に、どうにかしなければなるまい。 「そういや、千葉先輩。何しに図書室まで来たんですか」 「ん?あ、そうそう。藤倉、知らないか」 無難に遮ったつもりが、地雷を踏んでしまったようだ。 「放課後、部室に来いと言っておいたんだが。来る気配が全くない」 地学の授業後、千葉が叶を廊下に呼び出していたのを、扉夏は目撃している。 千葉と同様に、似合わないように思えるが、叶は文芸部員であった。 「部長自ら召集って。優遇されてるねぇ」 「別に。いつものことでしょ」 戻ってきた彼女は、素っ気なかった。 「悪いけど、これ渡しといてくれる」 「行かないの?」 「予備校」 という会話を、叶としたことを扉夏は回想する。これも、一種のタイムリープというものだろうか。 文芸部では不定期に冊子を発行しており、手渡された茶封筒には、その原稿が入っていた。 「藤倉はあれか、私立校の男と続いてんのか。タケミツだかミネウチだか、時代劇みたいな名前の」 「峰内くんも徳川くんも、とっくに分かれてますよ」 叶は塾だと言っていたが、恐らく新たにつき合い出した他校男子生徒に、会いに行ったに違いない。 前へ |次へ |
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