《MUMEI》

「藤倉から原稿預かってます」
 扉夏は自分の鞄の中から、少し大きめの封筒をつかみ出す。
「何だ。木崎もまだタブレットじゃないの」
 カチャンと音がして、嶋田が本から顔を上げる。
 髑髏のシルバーリングが引っ掛かったのか、携帯電話が一緒に転がり出ていたのだ。
「藤倉のです。いや、あたしのもじゃないですけど」
 考えてみれば昼休み以降、叶に返した覚えもない。
「俺もだ。今時、髑髏か」
 千葉が携帯電話を拾い上げてストラップを弄ぶので、扉夏は返して下さいと手を出す。
「何で持ってんだ藤倉の」
「どさくさに紛れまして」
 故障しているみたいなんですけど、と扉夏は昼休みの納得できない現象を、千葉に説明してみた。
「充電が切れたとか」
「直前に、藤倉が通話していたはずですから」
 携帯電話の液晶画面は、相変わらず真っ暗なままである。
「お前の得意な空想科学の出番じゃねぇのか」
 興味のなさそうな嶋田が、ちゃっかり話を聞いていたらしく、千葉から携帯電話を取り上げると何やら操作しようとする。
 点かねぇな、と両手を軽く上げて、扉夏に戻した。
「何かぶつかったみたいな音がしたって?軽い音。…‥非常階段の下は芝生が生えてるよな」
 ぶつぶつと、千葉が何やら小さな声で唱え始める。
「嶋田、イサキ文具は校舎裏の塀向こうだったか?」
「だったね」
 扉夏は思わず、頷く嶋田としたり顔となった千葉の顔を交互に窺った。何か結論が出てでもいるのか。だとしても、嶋田は只頷いただけだろう。
「岩石は磁気を帯びているってのは、知ってるか?」
 一体、千葉は何を言い出したのだろうか。

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