《MUMEI》

「精密機械が岩石に激突したら、どんな状態になる」
「故障します」
 訳がわからないながら、扉夏は答えた。
「普通は硬い物体に当たった時点で、ま、何でも壊れるわな」
「でも直後には声が聞こえてました」
 彼女が納得できない理不尽な部分が、そこである。やはり、扉夏の証言は信用されていないのだろうか。
 いささか気分を害して、抗議を試みる。
 千葉は数理の証明問題を解くみたいに、前置きをした。
「非常階段下の芝生にだな、石っころが落ちていたと仮定した場合の話だ」
 磁気というのは、高温の核があって初めて生じる。
 知っての通り地球の中心には、どろどろに溶けた核が存在している。言わばインフルエンザのウィルスみたいなもので、岩石は溶けた状態から冷えて固まる過程で、その場所に磁気がうつされて、磁気を帯びる。
「要するに、電磁波が狂ったんだな」
 物体に直撃して、容器が打撃を受ける。同時に磁気に触れて、狂った力が、偶々付近に漂う思考を捉えてしまったとしたら。均衡の崩れた能力で、伝達活動を継続しようとした機械に、負荷がかかった結果、故障したのではないか。
「木崎の疑問の、石っころと隕石の区別なんだがな」
 地上の岩石も、隕石も同成分で構成されているので、話は少々厄介なものとなる。大爆発をしてできあがった地上の岩石は、一度溶けてしまっているので、太古にあった物質とは違ってしまっている。一方、隕石の中には、太古に存在した物質を内包しているものがあるそうだ。
 有名大学の研究員も大勢派遣されてくる訳である。
「故障の原因は、隕石だと思ってるんですか」
「ああ、イサキ文具に落下したんだ。隕石の欠片が学校の敷地に吹っ飛んでたって、不思議はないだろう」
 宇宙から飛来した物質。
 遠い過去から、やって来た可能性。
 超光速で運動する物体の寿命は、光速を超えられない物質よりも延びる。
「それは、未知なる存在意義を持った隕石の残留思念かもしれん」
 扉夏の聞いた、低いすすり泣きのことなのか。

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