《MUMEI》

「普通の石っころだったら、今更慌てて訴えることなんか何もないだろう。今まで転がってたんだからな」
 相対的に、隕石の塊から弾き飛ばされたばかりの小さな欠片が、維持はできなくとも、強い思念を持っている確立は高いのではないだろうか。
「例えば、どんな思念だったんですか」
「本能の叫び?遺伝子レベルで記憶されていそうな、喜怒哀楽。望郷の念とか」
 まるで、一生命体としての扱いだ。
 年数を経ると、道具でさえも魂を持つようになると言われる。ならば、岩石もまた、同様だと考えてもいいのではないか、と千葉が嘯く。
 扉夏が聞き取ったのは、哀しい気持ちであろうか。
「隕石なんてものは素直にできてんだよ。雑多な大気に汚染されて歪んだ地球産の石っころや、木崎と違ってな」
「千葉先輩には言われたくありません」
「あ、そう。傷ついたな。どうせ非科学的思考だからな。真実を知る術は今のところない。まぁ、お前も頑張るがいい」
 じゃあなと不敵な笑みで、千葉は、さっさと図書室を出て行ってしまった。
 一体何を頑張るのかと室内を見渡すと、もう、扉夏と嶋田以外は誰も残っていなかった。
 手持ち無沙汰で、気になっていたことを口にしてみる。
「あのシルバーリング、元々は千葉先輩のだったとかじゃありませんよね」
「知らないなぁ」
 素っ気ない言葉が肯定しているようにも聞こえる。
「一人で帰るつもり?」
 下らねぇから、さっさと片付けてくれよと、嶋田は手伝ってくれる気配もなかったが、待っていてくれる様子だった。
「帰りに非常階段下の芝生によってもいいですか」
 言ってみると、嶋田は黙って頷いた。

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