《MUMEI》
フタリキリ
明日午後から休みたいって、凄く勇気だして言おうと思ったら、先に明日は休みだって言われた。
どうやらちゃんと定期的な休みはあったみたいで。
それを早口で高原に言ったら、朝一の電車で行くって言われた。
だから俺は…。
朝一から計算して、この駅に電車が着くだろう時間に来て。その通りに高原は改札から出てきて、今目の前にいる…。




あんなに色々話たかったのにいざ会うと言葉が上手く出てこなくて。
二人でマックにとりあえず入って、ちょっと遅い朝飯して、それからなんとなく俺が今いる高校に連れて来てしまった。

せっかく会ってるのになんでなんも面白くもない学校に俺は高原を案内しているのか…。せっかく遠くからわざわざ来てくれてたりするのに…。




「ごめん…」

「え?何が?」

「だって俺つまらなくて…」

「は?意味わかんねーんだけど」


体育館や中庭とかを案内した後、なんとなく高原を寮に連れて来た。

今日は特に静かだ。先輩達電車に乗って仙台まで遊びに行くって言ってたし。多分この大きな建物には俺と高原二人きりだろう。


「やっぱり仙台の方がよかったよなー…」

「そうか?俺はこっちの方がなんか、ドキドキするっていうか…」

「え?」

俺は鍵を開けドアノブを引く。

「仙台より、前嶋が今どんなとこで頑張ってるのかって事の方が興味あったし、つかまさか部屋に入れて貰えるなんて考えてなかったから…」


「………、…たか…はら…」


なんも考えずに最後に寮を見せてやろうって思って。



結果二人きりで一つの部屋にいるなんて…
ちょっと、馬鹿みたいだけど、たった今気がついてしまった訳で…。


「あ…」


恥ずかしい。
浅ましい奴だって。なんかどうしよう。そう思われたのなら。
違う。
いや。
俺は…

ずっとずっと…

この部屋で、高原に会いたくて寂しくて泣いていたんじゃないか…。

「な、前嶋」

「……」


「前嶋に触りたい」

「……、っ、…」


「駄目?」



もう俺、何も見えなくて。目を開けられなくて。



「嫌だったら背中叩いてな」


ふわり。ふわり
ふわり。


それは羽根の中みたいに、優しく包まれて。
それは優しすぎてもの足りない位隙間だらけで、それはそれはぎこちなくて。


震える高原。

煩い高原の心臓。

高原の汗の匂い。

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