《MUMEI》 終昼休みの図書資料室、扉夏が仕事をこなす傍らでは相変わらず嶋田と千葉のコンビが昼食を摂っている。 本日、彼らが集中しているのは、選挙活動も行うアイドルグループの写真集である。 「先輩方、いっぺんに幾つもの欲望を満たそうとするなと、あれ程、口をすっぱくしているのに、全然聞き入れませんね」 「見たいの?」 「拝見しましょう」 扉夏が手を出したので嶋田と千葉が顔を見合せる。 「駄目だ。俺のあっちゃんは渡せない」 「お前のじゃねぇよ」 写真集を抱きかかえる千葉に、嶋田のつっこみが入ったが続けて、俺のモノだとも口走ったので、瞬く間に男達の醜い戦いの火蓋が切って落とされた。 扉夏はため息を吐いて、状況を見限ると席を立つ。 「待て木崎、いいこと教えてやろうか」 「もう、充分教えていただきました」 手を振り出て行く扉夏を見て、何か馬鹿にされた気がすると千葉が呟き、なぜか一発嶋田を叩く。 いつもの順路で、非常階段がある芝生を歩いていると、階段の踊り場に携帯電話を手にした叶がいるのが見えた。 色々なデータが全て消滅してしまった所為なのか、しばらく彼女は元気がなかった。どうも噂では私立校の男とも別れたらしい。 結局、機種交換となった携帯電話には、もう髑髏のシルバーリングはぶら下がっていない。 「タブレットにしたんだ」「まぁ、ね。いい機会だから」 自分もそろそろ換え時かと、扉夏が叶の多機能携帯電話をよく見ると、彼女の指に髑髏のシルバーリングがあった。 心境の変化、いや千葉に何か教わりでもしたのか。 あの日、日暮れの所為で隕石を見つけることはできなかった。けれども扉夏は何度か芝生に足を運んだ。 事実だけを述べると、石の欠片は存在していた。 見つけたものが隕石とは限らないのだけれど。 幾つかを、彼女がプラスチックコルクの瓶に入れて保管していることは、誰にも秘密である。 終幕 前へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |