《MUMEI》

「勿論ですとも」
話しの腰を折られて、
白衣の男は白髪交じりの右眉をぴくりと上げる。
物事には順序と言うものがあるんじゃ、
このせっかちな奴めが、
と言わんばかりに。
プロジェクターには男が
二人映っていた。
一人は椅子に腰駆けているが、両の手首と足首、ひじの部分を皮の枷のようなもので椅子に固定されている。
もう一人はその男の傍らに立ち、手に液体の満たされた注射器を握っている。白衣を着ているが、仮面の客達に説明している男よりは十くらいは若く見える。四十代後半くらいだろうか?
「彼が柴進一郎(しばしんいちろう)、この開発プロジェクトにおける
実質的なリーダーです」
画面内では、椅子の男が
柴進一郎を見上げて話しかけていた。
「よう博士さんよ。こんなに拘束しなくたって
逃げやしないぜ。逃げたところで行く場所なんて俺には無いんだからな」
「ナノ・マシーンを投与される事により、君自身の体に思わぬショック症状が現れるかも知れない。これはこちらの為だけでは無く、君自身の安全も考えた上での措置なのだよ。悪く思わないでくれたまえ」



「実験の被験者は人を
二人殺し無期刑になった犯罪者ですが、最近癌により先が長くない事を
診断告知されました。」
白衣の男は淡々と説明する。
「良心に目覚め、社会へ貢献しようとしたのか、ただ単純に命が惜しかったのかはわかりません。ナノ・マシーンの投与実験に自ら被験者として
志願したのです」



「ではいくよ・・・・」
画面内で柴進一郎が被験者の右腕に注射針を突き立てると、管の中の液体が被験者の腕の中に消えていくのが見えた。

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