《MUMEI》

「場所は先程のスポーツジムと同じ研究所内の、室内プールでの出来事でした・・・・」
上からのアングルで、百メートル四方のプールが映されている。
ゆらゆらと光を反射している水面に、次々と慌てた様子で飛びこんで行く
人々。
ぐったりした姿でプール脇の地上に引き上げられる被験者が映る。
「長い間潜水したまま上がって来ない被験者に不審を抱き、スタッフの
一人が水中へ潜ると、中で意識を失っている被験者を発見しました。
皆で溺れた被験者を救助したのですが・・・・」
スタッフのひとりが救命処置で、被験者の肋骨と腹部の間辺りを必死に両手で押している。
すぐに屈みこんで、人工呼吸のために被験者の口に自分の口を重ねる。
別のスタッフが、意識の無い被験者の首の辺りを
指さして、何か叫んでいる。カメラのアップ。
首筋に鋭い鉤爪(かぎづめ)にでも裂かれたように四筋の肉の切れ目が出来ていた。
ピンク色の肉を覗かせた首筋の裂け目は、驚いた事に別の生物のようにうごめいていた。
それはまるで呼吸しているように見える。
「鰓(えら)だと!!」
先程から文句の多い仮面が唸る。
他の仮面も思わず画面へ向かって身を乗り出している。
「肺呼吸が出来なくなった時点で、ナノマシーンが被験者を救うため、水中でも呼吸可能なように
肉体を変化させたものと思われます」
「馬鹿な」仮面の客達がざわめく。

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