《MUMEI》

了解した旨をまた返し、携帯を閉じると改めて歩きだした
「よ、真幸。今日合コンあんだけど、お前来ねぇ?」
「は?何だよ、いきなり」
教室へと到着するなりの友人からのソレに、うち怪訝な顔をして返せば
相手は両の手を合わせ、懇願するように頭を下げてくる
「な、頼むって。お前目当ての女、結構いるんだよ」
「……俺はダシか」
「そ、そういう訳じゃねぇけど。ほら、たまにはいいかなって思って」
必死すぎる友人に、だが井上は首を横へと振って返す
何でだ、と言いよってくる友人に
「先約」
とだけ返し、立ち尽くす友人を其処に放り置き席へと着いた
その日一日の授業を眠気と戦いながら何とかこなして放課後
終業の合図と共に井上は席を立って
友人との会話も程々に待ち合わせ場所へと急ぐ
まだ田部は到着していない様で
街路樹に凭れその到着を待つ
「早いな。お前」
声が聞こえ振り向いてみれば
朝、出て行った時と全く同じ姿の田部が其処に居て
御丁寧にも井上が結った不格好なネクタイもそのままになっていた事に
井上は深い溜息をつく
「直せよ、みっともない」
「んー。何となく」
「何となくって、あんたなぁ……」
一体どんな顔で仕事をしていたのか
ソレを想像するとおかしくも思ったが些か複雑でもあった
自分が結ったネクタイを、田部に一切直す気がないのなら
自分が見れる程度にはうまく結えられる様にならなければ、と
しなくてもいいような決意を密かにしてしまう
「明日はもっと上手く結んでやるんだからな!」
そんな宣言を田部へとして向けながら
井上は美保に食わすための料理の材料を律儀にも買いに向かったのだった……

 

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