《MUMEI》 「起きて戴けませんか?小澤様」 翌日、すっかり熟睡していたらしい小澤 緩く身を揺さぶられ、強制的に眼を覚ます羽目になった 夜の明けきっていない早朝 一体こんな時間に何の用なのかと怪訝な表情をして向ければ 相手の懐から、鈍く光る刃物の様なソレが見えた 「それで俺を刺し殺す気だったか?」 態と見える様に仕向けたのだろうそれを指摘してやれば だが執事は何を返答するでもなく その口元へ薄い笑みを浮かべたかと思えば刃物を小澤へと向け振り降ろしてきた 「……っ」 行き成りのソレを何とか避けながら相手を睨みつけてやれば だがその表情は顔を覆う仮面にて隠され、伺う事は出来ない 「何の真似か、聞いてもいいか?」 「お嬢様からの提案でございます。このゲーム、私達も参加しろ、と」 「何のために?」 例え参加したとしても何の利も無いだろう事を指摘してやれば だが返ってくるのは不敵な笑みばかり 答える気がまるでないのだと解釈し 小澤は押しつけられた刃物を手で押しのける 直接刃物を握った所為で皮膚が裂かれ、血が滲み始めた 「……ルールを捻じ曲げた俺らに対する制裁ってワケか?」 「そうではありませんよ。お嬢様は兎に角楽しい事が大好きなんです」 「楽しい、ね」 もし現状をソレに当て嵌めるとするならば随分と悪趣味で 小澤は僅かに表情を歪める 「そんなに難しく考えないで下さい。唯、殺す人間が数人増えたと考えて頂ければ」 「……」 聞く声は随分とにこやかなソレで だが内容が無い様なだけに小澤は何を返す事もせず 銃口を、相手へと向ける 「駄目ですよ。小澤様。……銃殺は、美しくない」 「は?」 「刺殺こそ美学。アナタのその刃で美しい文様を私達に刻み込んでください」 喉の奥で厭らしく笑いながら、相手は身を翻し部屋を後に 無防備に晒されたその背に 小澤は何を仕掛けるでもなく睨みつけるばかりだった 「……大丈夫か?アンタ」 服の裾が僅かに引かれ、高宮がゆるり身を起こす ソレを途中でまた押し倒し、顔の真横へと唐突にナイフを突き立てた 「……恐い?」 「何が?」 「手、震えてるから。こんなじゃ、誰も殺せない」 小澤自身気付かずにいた本の僅かな震え ナイフから小澤の手を離してやり、高宮は自身の頬へと触れさせる 「今は、止めよ。ね?」 まるで子供に言い聞かせるかの様なソレに 小澤は喉の奥で嘲笑うような声を鳴らすと、高宮の身体を抱きすくめた その内、すぐ耳元から小さな太鼓を叩く様な音が鳴り始めた 「鬼囃子……。今度は誰が鬼に堕ちるんだろうね」 「……知るか」 「アンタかな。それとも、俺?」 楽しみだ、と嫌気がするほど綺麗な笑い顔 いつか、この悦に入った表情を苦痛に歪ませてやりたい、と 小澤の内にどろどろとした黒い感情が沸き起こってくる 「少し、黙れ」 これ以上聞いてやるつもりはない、と 更に言の葉を紡ごうとするその唇、田部は自身のソレでふさいで止めた 「……ん、ぅ」 くぐもった音として口の端から聞こえる声 向けられる憎悪とは相反し、甘やかな口付け 愛されていると勘違いしてしまいそうなほど柔らかなソレに 高宮は若干の動揺を覚える 「……もっと、俺を傷つけろよ。子規」 そうしてくれれば間違える事など無いのだから、と 与えられるソレに、高宮眼を閉じ身を委ねたのだった…… 前へ |次へ |
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