《MUMEI》

天狗丸は全身を鎖でがんじがらめに縛られ、ふて腐れたようにあぐらをかいて座っていた。
両側には赤鬼と青鬼が立って、槍の尖端を突き付けている。
その天狗丸の前方には、身の丈(たけ)が二三十メートルはありそうな、閻魔(えんま)大王ハデスが、巨大な椅子に腰かけ、むっつり顔で見下ろしている。
とうとう俺も年貢の納め時か・・・・。
一体どんな刑罰が待っているのやら。
針地獄の刑。焦熱地獄の刑。極寒地獄の刑。
それとも飢餓地獄の刑か?いや皮剥ぎの刑かもな・・・・。どうせだったら快楽地獄の刑が良いよな。
天狗丸の脳裏を様々な思いが去来する。
いずれにしても、タダでは済まないだろう。
下級神であるこの俺が、閻魔大王の孫娘に手を出したのだから。
何しろこの地獄界での厳しい階級制度は人界などの比では無い。
と言うより人界の階級制度自体が地獄界の劣悪なコピーに過ぎないのだが・・・・。
そして妖怪などと言われても、神一族の端くれである強力な生命力が、
消滅までの時間を長びかせて、文字通り地獄の
苦しみの中でのたうちまわるハメになるだろう。
考えるだけで吐き気が止まらない。
しかし心と裏腹に、口をついて飛び出したのは
やけくそな喚(わめ)き声。
「畜生ーーっ!殺(や)るんならさっさと殺りやがれーーっ!!この世に生を受けて三百年、やりたい放題やって来た
天狗丸様だーーっ!!
今さら閻魔の裁きを恐れて自分を曲げられるかってんだーーっ!!
さあ煮るなり焼くなり
好きにしやがれってんだーーっ!!」
「ほう・・・・小僧、
糞度胸だけは一人前のようだな。さすがにこの
閻魔大王と呼ばれ恐れられるハデスの孫娘に手を出すだけの事はある。
それともただ単純なバカなだけなのか?」

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