《MUMEI》
ふりむくまもなく視界が回転した。
腹の上にただ事でない重さがかかっている。
目の前に見たことのない大きさの黒い鼻面があった。
きれいな桃色の口が唸りながら半分あいていた。
白オオカミだ。
吠えた口元から湯気が立ちのぼる。
左腕は押さえつけられている。
幸い右手はあいている。
怖いというより
突然すぎて驚いた。
しかし
オオカミの息が鼻をかすめて
はっとした。
ナイフ!
探せ!!
あるはずだ。
オオカミは噛みつこうと一瞬喉をそらした。
指先がポケットのナイフに触れるのとほぼ同時だった。
やられるものか!!
オオカミの牙は耳を噛み裂いたが、
ナイフはやつの腹に深く刺さった。
左腕をオオカミの足の下から抜き、
ナイフを両手でつかんで
力まかせに縦に切り裂いた。
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