《MUMEI》
訪問者
ー夢喰い事務所。只今営業中。
  御用の方はボタンを押して下さいー

看板にはこう書いてある。
普通に考えて怪しい。
だが、どうせ夢なのだからと尚哉は
そのボタンに手をかけた。

ガタンッッ!!

いきなり、地面だった場所が音をたて
開いた。

「ぅわあああ!!」

どのくらい落ちているのかわからない。
1時間か。それとも、半日か。
夢というのは、現実ではありえない事が
起こる。
落ち続けているからか体力も消耗する。

「はぁ…。座りたい。」

尚哉が呟くと何処からか椅子がでてきて
腰掛けていた。
なんとも、便利な世界である。

「じゃあ、珈琲が飲みたい。」

すると今度は、薫りのよい珈琲が出てきた。
これでは、まるで童話の世界だ。

しかし、童話とも何か違う。
これは、夢なのだから。

辺りには、闇が続く。
誰もいない。何も聞こえない。

やがて、椅子が静かに止まり水に浸ったが地に脚をつくことができた。
暗闇の世界で遠くに街灯の光を
見つけた。
その下に、誰かが立っている。

尚哉は、その人物が立っている街灯に向かって歩いた。

この夢で初めての出逢いは、赤い
ワンピースを着た少女だった。

「君も夢に来たのかい?
 どうしたの、何で喋らな…い…」

少女は、下を向いたまま動かない。
何かがおかしい。
ワンピースには白い変な模様が 
ついている。
もっとよく見ようと街灯の下に近づき
尚哉は足下に広がる赤い水を見た。

「な…んだ…これ」

手で触ると、粘り気があり嫌な臭いが
する。
ズボンで手を拭くとそこだけ赤く
染まった。

臭い。くさい。クサい。クサイ。

赤い水の正体がわかった。

血だ。

この世界を浸す事ができるほどの。

そして、少女の白い模様だと思っていた
ワンピース。
あれは、赤に染まりきっていない白いワンピースだった。

「お待ちして下りました。
 こちらへどうぞ。」

喋ったかと思った次の瞬間。
少女が消えた。

「…え。…あれ。。何処に…!!」

呆然と立ち尽くしていた尚哉だったが、
足下から先ほどの少女が浮かんできたので腰を抜かした。

「わぁっ?!!何でそんなとこに!!
 って。まさか潜って付いて来いと…?」

水面に頭だけ出した少女は頷き潜ってしまった。

「まじかよ。…はぁ。わかったよ。」

尚哉は、吸い込めるだけ空気を吸い
肺に溜め勢いよく赤い水に潜っていった。


目を開けると今度は白い空間が広がり、
目の前には扉があった。

俺は、扉に手を伸ばし開けてしまった。

今思うと、その扉は開けてはいけない
パンドラの箱だったのかもしれない…


「ようこそ。夢喰い事務所へ。
 お待ちして下りました。尚哉様。」



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