《MUMEI》
帰り道
▽
俺達は電車に乗った。
車両が混雑していて扉の近くに二人立つ。
今の俺の頭の中、直哉の事でいっぱいだった。
俺の事を愛している直哉…。
俺が離れたら直哉はどうなってしまうのか?
――直哉は俺しか見えていない。
でも俺は……。
俺は、少なく共…違う……。
うつ向いた視線を窓の景色に移す。
すると…、
窓に隆志の手が、俺の頭の両脇に付き、混雑から俺を守っていた。
窓に映る隆志の顔。
――凄く真剣で…
初めてみる、隆志のそんな顔…。
もしかしてたら、って気持ちが押し寄せる。
――でも、直哉は?
俺は、後ろに寄りかかりたくなる気持ちを必死で押し殺す。
すると耳元に、隆志の低い声が僅かな大きさで入ってきた。
「大切にするよ…、裕斗」
泣きたくなった。
いや、涙が溢れてしまった。
俺はそのまま立っていられず、隆志の腕に寄り添ってしまった。
――電車が揺れ、景色が何時もの様に流れる。
――何時もと違う事は、
俺が隆志の片腕に抱かれながら、
お互いに僅かに触れ合う温もりを
ひたすら感じ合っていた事…。
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