《MUMEI》
帰り道













俺達は電車に乗った。




車両が混雑していて扉の近くに二人立つ。







今の俺の頭の中、直哉の事でいっぱいだった。






俺の事を愛している直哉…。






俺が離れたら直哉はどうなってしまうのか?





――直哉は俺しか見えていない。






でも俺は……。





俺は、少なく共…違う……。




うつ向いた視線を窓の景色に移す。



すると…、





窓に隆志の手が、俺の頭の両脇に付き、混雑から俺を守っていた。





窓に映る隆志の顔。





――凄く真剣で…





初めてみる、隆志のそんな顔…。





もしかしてたら、って気持ちが押し寄せる。




――でも、直哉は?





俺は、後ろに寄りかかりたくなる気持ちを必死で押し殺す。



すると耳元に、隆志の低い声が僅かな大きさで入ってきた。




「大切にするよ…、裕斗」





泣きたくなった。







いや、涙が溢れてしまった。




俺はそのまま立っていられず、隆志の腕に寄り添ってしまった。






――電車が揺れ、景色が何時もの様に流れる。






――何時もと違う事は、





俺が隆志の片腕に抱かれながら、
お互いに僅かに触れ合う温もりを







ひたすら感じ合っていた事…。

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