《MUMEI》 如何《いか》に小雨とはいえ、これでは土手に着くまでに濡れてしまう。 仕方がないのでオレは近くにあるバス停の待合小屋に入った。 コンクリート製の古い小屋だが、雨宿りをするには十分すぎる。 ここでしばらく雨脚を見て、無理そうなら今日は帰ることにしよう。 そう思っていると小雨から本降りに変わり、一人の青年が道路を横断してくるのが見えた。 その青年は雨が舞う中を慌てる素振りすら見せず、ゆっくりとした足取りで小屋に近づいてきた。 彼も雨宿りだろうか。 すると青年は小屋の前で立ち止まり、 「俺《おれ》が見えるか?」 「え……?」 突然話しかけてきたかと思えば「俺が見えるか?」だって? 俯《うつむ》いたままで顔がよく見えないが、発言からしてアブナイ人かもしれない。 オレと変わらない身長、体格も痩せ型でいかにも非力な印象を受ける。 これなら仮に襲われてもどうにか対処できるはず。 できるはずだが、正直係わりたくないのでこの場を離れようと一歩踏み出した瞬間―― 「声も聞こえてるようだな」 彼が顔を上げたことで、目が合ってしまった。 「っ!?」 前へ |次へ |
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