《MUMEI》
始まり
音がする。
なんて素晴らしい音色だろうか。

私の目の前には、一台のシュレッターがある。

ガガガ…ガガガ…ガガガ…

いらない資料を上司に頼まれカケているのだ。
少しずつ機械の中に紙が巻き込まれていく。
機械は私の腰丈ほどの大きさがあり
紙を食べる為の口は、30cmほど開けて
今も私の目の前でお昼の食事を続けている。

ガガガ…ガガガ…ガガガ…

君は、なんて美味しそうに食事をするのだろう。
どんどん食べさせたくなるが喉に
詰まらせてしまうので適度な大きさに
裂いてやる。


ガガガ…ガガガ…ガガガ…

「嬉しい。ありがとう。」
そんな風に聞こえた。
喜んでいる姿が見たくて口にいれたが反応がない。
どうやら、一度に食べ過ぎたようだ。
私は、彼の胴体部分を開き
噛み砕いた食物を上から押して小さく固めた。
これでまた食事が始められる。

私は彼の口に食事を運ぼうとしたが、私の幸せを邪魔する悪魔が声を掛けてきた。

「本田さん、シュレッダーかけにいつまで時間かけているの。
他にも仕事はあるのよ。早くしてちょうだい。」

きつい香水の匂いを振りまき、小言を言ってくるこの女は清水麗子。
趣味は、新人いびりだ。
自分より若い子が入社してくるたびいつもこうらしい。
私は彼との唯一の触れ合いの時間を邪魔されストレスが
解消されるどころか、また溜まってしまった。

ー彼を家に迎えいれようかなー



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