《MUMEI》
狂った井上
「何で…っ!?」
「井上?」
「何で俺なんだよ!!」
日が暮れ、うっすら星が輝きだした空を見上げる井上が、突然叫び出した。
「嫌だ!嫌だぁ!!」
いつも物静かだった男が、今では取り乱し、騒ぎ立てている。
皆、その様子に呆気に取られ、通行人達でさえ立ち止まり、井上の異常さに釘付けにされていた。
余りに目立ち過ぎている。
「なぁ、落ちつけって!」
「ヒィ!や、やめろ…っ」
これはマズいと感じた洋平が慌てて止めるに入るが、井上はそれを払いのけ、更に混乱し始める。
「ち、違…違うじゃないか!!」
「何?一体何の事だよっ!?」
「約束と違う!」
「はぁ?訳わかん‥っだぁ〜くそっ!なんつー力だよ!?司も手伝え!」
「あ‥おう!」
もはや洋平一人では抑え付けられない程、井上は暴れ狂っていた。
司が協力してくれたお陰で、何とか押さえ込む事が出来たが、井上は息を荒げたまま、まだ暴れようとしている。
「離せ!離せぇぇぇ!」
「いいから落ち着よ!」
「殺される!殺される!」
「誰にだよっ!?」
「殺される!殺される!」
しかし洋平の必死の問い掛けも虚しく、井上はただその言葉を繰り返すだけ。
「殺される!殺される!」
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