《MUMEI》

「『俺達』は勉強も運動も人並み以下。弟は勉強こそ並だったが運動面では遥かに『俺達』より優れていた。周りにいる、学年にいる、学校中にいる奴等の誰よりもズバ抜けていた弟は、他の誰よりも目立った。
そんな弟に向けられる視線はいつも決まって尊敬や羨望《せんぼう》、憧憬《しょうけい》といったモノだ。当然、嫉妬など『負の感情』を懐《いだ》く輩《やから》が出て来るかと思っていたがそんな奴等は現れなかった。……何故だかわかるか?」

これ以上聞きたくない……理由なんて、そんなモンわかってんだよ!

「わかったからやめてくれ」

「『俺達』がいたからだよ。デキのいい弟には何をやらせても並以下の兄貴がいる。みんなそれを知っていたから、弟に対する嫉妬じゃなく、『俺達』に対する哀れみや同情に変わっていたんだよ。そして納得されていた……」


『アイツにはダメな兄貴がいるからバランス取れてんだよ』


『かわいそ〜。弟にいいところ全部取られちゃったんだ』


『俺だってオマエと変わらないんだから気にすんなって』


「お前は……いや、『俺達』は……弟が疎《うと》ましかったんだよ。そうだろ?」

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