《MUMEI》

 「で?何で此処なんだよ?」
翌日、先日の言葉通り出掛けることを実行した井上と田部
その姿はどうしてか某有名遊園地にあった
入園ゲート目の前に怪訝な顔をする田部へ
井上は入園チケットを渡しながら
「俺に聞くなよ。文句あんならこれ持ってきた美穂に言えって」
「……やっぱりあいつの仕業か」
「……変な所で、準備いいよな。あいつ」
「唯単に馬鹿なだけだろ。何考えてんだか」
男二人で遊園地などと言う余り陥る事がないだろう状況に
周りの眼はどうしても井上達に集まってしまう
「どーする?帰るか?」
「そ、だな。これ、誰かにやればいいし」
互いにそうしてやろうと頷いた、次の瞬間
田部の携帯のメール着信音が鳴り響く
ソレを見た田部が深すぎる溜息を吐き
何を言う事もせず、井上へとそれを見せてきた
「……(ネズミー君の人形を買ってくるように)?何だよ、これ」
「様は土産買って来いって事だろ」
「ってかネズミー君って……」
一体何なのかと怪訝な顔をして見せれば
その井上の目の前に、気ぐるみが姿を現した
その名の通りネズミを模したキャラクターで、愛嬌のある動きをしてみせるソレに
だがどう反応していいのかが分からず、田部と顔を見合わせる
「……仕方ねぇ。入るか」
溜息混じりでぼやく事をした田部
井上の手を自然な動きで取ると、入園ゲートへ
其処から見える園内の様子は随分と賑わっていて
井上達はそれに圧倒されたのか、暫くその場に立ち尽くす
「……ネズミー君だけ買ってさっさと出る?」
どうやら田部はこういう場所があまり得意ではないようで
近場の土産店へと入り、取り敢えずは目的のもを購入するとそう提案してやる
田部は暫く考えこみ、だがゆるり首を横へと振ってきた
「ま、たまには遊んでみるのもいいだろ。行くぞ」
繋いだ手はそのままに中へ
何か乗りたいものでも見つけたのか、真っ直ぐ歩いて行ったその先には
絶叫マシーン
「……アンタ、これ乗りたいの?」
「何?お前、恐いの?」
「べ、別に、そんなじゃ……!」
「だったら、いいよな」
挑発するような笑みが田部の口元へと浮かび
此処で断るのも何か負けた様な気がする、と
井上は田部を引き摺ってソレへと乗り込んだ
だが、それをすぐに後悔する羽目に
「……本気駄目ならそう言えよ。馬ー鹿」
降りるなりぐったりと座り込んでしまった井上へ
田部は溜息を吐きながら、額へと缶ジュースを当ててやる
ひやりとしたソレを受け取り、一口飲めば
ホッと、安堵のため息が出た
「べ、別に俺、恐かった訳じゃねぇから」
「は?」
青ざめた顔のままで強がりを言う井上
何故其処まで強がるのか、と田部は自然と肩を揺らす
「じゃ、次はお前の乗りたいもんでいい」
どれがいい?と問うてくる声に、井上は暫く考えこみ
とあるアトラクションを指差した
「……観覧車?」
「そ。もう少し、休みたいから」
ゆっくりするには打って付けだろう、と田部の手を取りそちらへと引っ張っていく
男二人で観覧車も如何なものかと田部は思いはしたが
乗りたいものでいいと言った手前、井上の後に続くしかない
「な、見ろよ。すげぇいい景色だ!」
ゴンドラへと乗り込めば段々と高く眼下に開けて行く景色
楽し気にはしゃぐ井上を眺めながら
「お前、高いトコ苦手なんじゃないのか?」
だから絶叫系も駄目なのでは、との田部へ
井上は僅かに動揺を始める
「べ、別に、高いトコになんて怖くねぇよ」
「へぇ」
「あ、信じてねぇな!俺は、絶叫系が苦手なだけなんだよ!」
自棄になって言い迫ってやれば、段々と近くなっていく互いの距離
更に文句を言いつの手やろうとした、次の瞬間
頬に手が伸びてきたかと思えば、自然な動きで唇が重ねられた
「なっ……!?」
瞬間、何が起こったかが分からず呆然
だがすぐに理解し、井上は田部の方を見やった
「ア、アンタ、今、何して……!?」
「あ?ああ、悪い。つい」
「(つい)じゃねぇだろ!つい、じゃ!」
嫌悪感は、ない
だが田部の本心が何所にあるのが解ら無い事がもどかしく
一体、互いのこの関係をどう思っているのか
田部の口から、直接聞きたかった
「ん?どうした?」
その答えを求めるかの様に見上げてみれば

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