《MUMEI》
居心地の悪さ…
「じゃ、俺行くわ」

侑がそう言って離れていったのは

それからもしばらく時間がたった後だった。

少しなごり惜しい気持ちでその背中を見送っていると

入れ違いに大翔がやってきた。

「あいつ、なんでここにいたの?」

問いかける大翔の目はどこか鋭い。

わけもなく後ろめたい気持ちになって


侑を責められたくなくて、芹奈はつとめて軽い口調で言った。

「資料室に来たついでの道草だったみたいよ?」

「………ふーん」


あ、ムクれてる……。


「で、でもちょっと助かっちゃったよ。私一人で暇だったから」

「――なんだ、それなら言ってくれればいいのに!」

大翔はひょっと眉を上げるとジャージが汚れるのもかまわずに芹奈の隣に座った。


「そしたら俺がここにいるし」

そのとき感じたのは、嬉しさではなかった。

どうしてかは、わからない。

でもなにかたじろいてしまうような、そんな居心地の悪さ。

「ありがと………」

「いい。俺がそうしたいだけだから」

どうして?どうして私は大翔が好きなのに

その好きな人に優しくされているのに

―――どうして私、こんな重たい気持ちになってるの…?

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