《MUMEI》
わからない
 羽田はなんとか話を理解しようと頭を抱えた。

「えー、と?つまり、彼は別世界に生きてる人なのね?」

凜は頷いた。

「そこに見えるのは、別世界の街?」

再び、凜は頷く。

「そう…なんだ…?」

納得しかけて、羽田は新たに疑問を持った。

「なんでいきなり別世界が見えるようになったの?」

「そりゃ、凜があんたに触ってるからだろ」

レッカが、そうだろう?というように凜を見た。

「そう。わたしが触れている間は見れるんです」

「……じゃあ、あなたはどうやって見てるの?」

「別に」

凜は無表情のまま答える。

「…別にって」

「特別に何かして見るわけじゃありません。わたしにはいつの間にか見えていた。逆になんで他の人には見れないんだろうって昔は思ってました」

「生れつき?」

「さあ、どうなんでしょうね」

どうでもいいように凜は肩を竦めた。

「あなた、えっと宮村君からわたしは見えないのよね?」

羽田が聞くと、レッカは気持ち悪そうに眉を寄せた。

「名字で呼ぶなよ。レッカでいい。……まあな、凜が触ってない限り見えない」

「でも、じゃあ津山さんのことは?見えてるの?」

「ああ」

当然だろうとレッカは頷く。

「けど、あなたはこっちの世界の人よね?戸籍だってあるわけだし、学校にも通ってる」

羽田の疑問に凜は頷いた。

「わたしはレッカの世界では不安定な存在なんです。わたしから向こうの世界は見えるけど向こうの人からわたしは見えたり見えなかったり。幽霊みたいに見えることがほとんどみたいです。わたしの姿を見た人からは大低、悲鳴をあげられます。レッカとは特別相性がいいみたいで」

凜が言うとレッカは得意げに親指を立てた。

「ちなみに、この家は巷じゃ有名なお化け屋敷だ」

 羽田はそう言うレッカを放っておいて、再び頭を抱えた。

「……とりあえず、だいたいの説明は終わりですけどわかりました?」

凜は悩む羽田に遠慮がちに聞いてきた。

「……んー、わからない」

「ですよね」

「なんだよ、頭悪いな。教師のくせに」

馬鹿にしたようにレッカが笑った。

「だって……」

むしろ、教師だからこそ理解できないのだ。

 教師は生徒に明確な事実しか教えない。
それ以外は認めてはいけない。
しかし、今、目の前に認めてはいけない事実がある。
否定したくとも、羽田自身がその目で見ているのだからできない。

「少し……」

考えさせて、そう言おうとした羽田の声を、突然の爆発音が掻き消した。

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