《MUMEI》

解っているのかいないのか、田部は首を傾げてくる
どちらも、互いに言わせようとしている
勝ち負けの問題ではないが、先に言ってしまった方が負けの様な気がしたからだ
「……素直じゃ、ねぇな」
先に口を割ったのは田部
溜息混じりに呟けば、徐に井上の腕を引き、
唇に触れるだけの軽いキスを交わす
「こうい事がしたいって程には、お前に興味が湧いたって事なんだが?」
「興味、だけかよ」
「さぁ、どうだろうな」
「……アンタ、何かそれムカつく」
明確でない答えに、井上は更に答えを求める
井上の方も、同じなのだ
その答えが欲しいと願う程度に、田部の事を意識している
「……絶対、言ってなんてやんねぇんだから」
「何を?」
「……アンタの事、好きかも、なんて」
言ってしまっている事にうっかり気付いていない井上に
当然気付いた田部は口元に微かな笑みを浮かべて返すばかりだ
「そか」
指摘してやる事はせず、田部は丁度一周した観覧車から井上をつれ降りる
手を引いたまま、早々に其処を後にすると車へと乗り込んだ
返るのか、と尋ねようとした口を
塞ぐ化の様に田部のソレでまた塞がれた
「……アンタ、また!?」
「どれだけ自分が空っぽだったか、解った様な気がする」
文句を言い掛けて、それを田部の声が遮る
向けられるのは、穏やかな顔
出会ったばかりとは違う、柔らかい表情だった
「お前の、所為だから」
「は?」
「俺がこう変わったのはお前の所為。だから責任、取れ」
「な、何だよ、それ!?」
意味が分からない、と文句を返す事をすれば、田部は唯笑うばかりで
そんな田部へ、井上は更に文句を言い募ったのだった……

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