《MUMEI》

 色彩感覚の狂った原色が混沌として続く家屋の向こう。
 砂煙を上げて自動二輪が姿を見せた。互いが競い合い、不恰好な建築物が乱立する町並み。魔物の彫刻が屋根で片方だけの翼を広げる建物を越えて、走って行く。
 町に足を踏み込む際にくぐった朱門から、外へと抜けていくのかもしれない。
 運転していたのは女のようだった。
 風に巻き上げられる切りっ放しの髪を押さえて、少女は自動二輪を彼方に見送った。
 擦れた色の鞄を背負い直すと、町の先を目指して歩き始める。着衣の中に吹き込む風は、妙に生暖かい。
「とにかく、あの丸い形の建物を目指せばいい」
 町の入口まで案内を頼んだ痩せた男に、そう教わった。予算の都合上、すでに彼の姿はない。遠く、確かに円蓋型の屋根が見える。
 一体、何の建物なのだろう。
「本当にあんなところに」
 …あるのだろうか。
 常軌を逸した様相の建物が溢れる町に、知らず不安を覚える。意識して零した言葉を途中で飲み込んでみても、それが消える訳ではない。時に最悪な現実となり、襲ってくるものだ。
 決断を下す間もなく、複数の乱れた足首が、彼女の背後から聞こえてきた。
「金、持ってそうか?」
「何でもいいさ。なくても金にすりゃあ」
 猥雑な町の姿を体で表したような男達が言葉を交わし、彼女を取り囲もうと近づいてくる。少女は後退ろうとして、彼らの中に知った顔を見た。朱門で別れた案内人の男は視線を逸らしたまま、男達の背後に身を隠すと、そのまま見えなくなった。

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