《MUMEI》

それはまだ、戦(いくさ)へ突入する前の不穏な空気が世界の隅々に漂い始めてはいたものの、平和だったと言って良い、ある夜明け前の時間であった。
もっとも闇と静寂が深まるこの時間、草原を吹き抜ける生暖かい風に頬を撫でられながら、白虎は<けっかふざ>で一人
目を閉じ瞑想していた。
意識を尾てい骨に存在するムーラーダーラ・チャクラに集中すると、体内の脊柱に沿って、大地のエネルギー『クンダリニー』がらせん状に立ち上って来る。
それに合わせるように
体内で六つのチャクラが回転を始める。
ふと背後に人の立つ気配を感じて瞑想を中断すると、白虎は背後の小柄な人影を振り仰いだ。
「お師匠様・・・・」
破れ衣に腰まで伸びた
白髪を風になびかせながら、鞘に納めた刀を右手に携えた青龍の両眼は闇の中だと言うのに底光りしている。
しかしこの闇の中、微かな足音すら立てず、ましてや『気』に対して鋭い感覚を持つ白虎に気付かれずに、どうやってここまでやって来たのだろう。
「ここ」と言うのは、巨大なピラミッド頂上の
正方形のテラス。ふたりのいるピラミッドのすぐ傍に、やや大きさの劣る(とは言っても数百メートルはある)ピラミッドが二つそそり立ち、それより離れて百メートルくらいの高さの岩山がひとつある。眼下には草原があり、地平の果てまで続いている。先程から白虎の頬を撫でる風は、その
草原に乗って運ばれて来たものだ。エネルギーの磁場が発生するピラミッド頂上はもっとも瞑想に適しているため、白虎はまだ陽のある夕刻に上り着き、すでに十時間あまりを瞑想に費やしていた。
闇の中での登攀(とうはん)は非常に危険で、下手をすると命に関わるからだ。
人の身でありながら、もっとも神一族に近い存在と言われる青龍。
すでに舞空術を身に付けていると言われる噂は、やはり真実だったのか?
「世界を不吉な暗雲が包み始めておる」
青龍は白虎のほうを一瞥もせずに、虚空を睨んだまま重々しく口を開いた。
「この高天原アトランティスよりさらに前文明の生き残りである国津神一族と、星の海を渡りこの世界へやって来た天津神一族の間での戦はもはや避けられぬだろう・・・・。我々人も、この戦に否応なしに巻き込まれざるをえまい。神の文化と交わり、ここまで発展を遂げたこのアトランティス文明と共に、人もこのまま破滅の道を歩むのか?否・・・・!
まだ道はある。ある意味神一族はその強大なる力ゆえに傲慢となり、進化の息詰まりにある生命体。しかし人は今でこそ
卑小な存在だが、やがては神一族をも越える巨大な存在となるであろう。鍵は七番目のサハスラーラ・チャクラにある!」

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