《MUMEI》

小澤を庇うように立ち位置を換えながらの訴え
懸命すぎるソレに、瞬間虚を衝かれた様な表情
だがすぐに、笑う声を上げ始める
「……アンタ、まさかその男の事、好きになったなんて言うんじゃないでしょうね?」
「そうだ、って言ったら?」
「だったら尚更、私はこの男を殺すわよ。アンタだけ、幸せには、させない」
由江は高宮へすら憎悪の念を向ける
今の彼女を動かすのは唯、憎しみのみ
ヒトは、これ程まで誰かを憎み、自身を追い詰める
その先に彼女が見出す事ができるのかは、愉悦か絶望か
それは、本人でさえも解らなかった
「……覚悟、する事ね」
見るに美しいと感じるほどの微笑を湛え、由江が身を翻せば
後に続く様に他の連中も部屋を出始める
結局、最後に残った小澤達
痛みに全身が怠く、動けずにいた
「……小澤様、部屋までお連れ致します」
何処から現れたのか
小澤は執事に抱き抱えられ部屋へと戻る事に
「……な。さっき、あいつが言ってた事だけど。あれ、どういう事?」
傍らをついて歩きながら、先に少女が言った事の本意を問うてみる
行き成りのソレに、瞬間相手は解らなかった様子だったが
徐に、自分の仮面を取ってみる様高宮へと言ってきた
突然何なのか
高宮は訝しみながらも言葉通りその仮面を取ってみる
「……!?」
瞬間、言葉を失う高宮
其処から覗いたのはヒトの顔に非ず
歪み切った、鬼の面がソコにはあった
「……随分と変わった面してんな。アンタ」
「驚かれないのですか?」
「別に。ここの奴等全員変だし。でも、それって生まれつきか?」
「……いえ」
執事はゆるり首を横へと振り
何かを憂う様にどこぞかを眺めている
「……早くしなければ皆、鬼に食われてしまいますよ」
「は?」
聞き返してみるが、執事からそれ以上何を語られる事もなく
そのまま無言で部屋へと到着していた
「では、私はこれで失礼致します」
小澤へ手当を施し、執事は部屋を後に
ベッドに横たわる小澤を高宮は無言で眺め
徐に、その傍らへと腰を降ろす
「……俺が、全部、壊してやるよ」
小澤へと貪る様なキスをしながら
高宮は満面の笑みを浮かべ、踵を返した
戸へと手を掛ければ鍵は掛ってはおらず
簡単に開いた其処から高宮は外へ
廊下を何気なく歩いていると
前方から歩いてくる人影が見えた
先に、少女へと喰ってかかった人物
小澤達が去った後、派手にやり合ったらしく全身血塗れで
正面から見据えたその顔は、半分が醜く歪んでいる
コレは、己が身の成れの果てか
そう考えてしまえば、つい眼を逸らしてしまいたくなる
「……殺して、やる」うわ言の様に呟くと、相手は手に持っていた刃物を高宮へと差し向けた
向けられるのは、憎悪と殺意
この場所に在って、常に向けられている筈のソレが
全く別のものみ感じるのは何故か
ソレは恐らく、ヒトと鬼、その違いから生じているのだろう、と
高宮は相手を見据える
「アンタさ、なんでそんな事になったか、聞いてもいい?」
「何、だと?」
「殺されてやるつもり更々ないんだけど、仮に殺されるとした理由位聞きたいだろ」
当然の権利だと主張してやれば
相手が答えるより先に、何処からかお囃子の太鼓の音が聞こえ始めた
高宮の気が瞬間そちらへと逸れてしまい
その隙を相手が狙わない筈はない
刺し抜こうと向けられた刃
だがそれを、別の人物が不意に現れ、止めに入った
「……小澤様」
意識を失っていた筈の小澤
その眼には更に紅く、相手を見据えている
「……あなたは、完璧な(鬼)に成り得る方なのですね」
執事の言葉にも反応する事はなく
小澤は執事へと銃口を向けた
「お嬢様の見立ては間違いでは無かった。これで私達は――!?」
何故か歓喜の声を上げ始めた執事
歪んだその顔が更に醜く歪み
見るに不愉快なそれを小澤は銃で撃って砕いていた
「……駄目だよ」
あともう少しで自我を失う
自身でもソレがわかった、次の瞬間
高宮の手が、頬へと触れてきた
「……コイツらは、俺が殺る。アンタのこの手は俺だけのモンだ」
自分を殺すまで汚さないでほしい、と
乞う様に小澤の手を取り、指を口に含んだ
肉の味をまるで味わう様に舌で転がしながら
高宮は愉悦に満ちた表情を浮かべて見せる

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