《MUMEI》 「量が足りないってさ」 押し倒された少女の頭上で、声とともに勢いよく部屋の扉が開けられた。 「やべっ」 顔を上げた男が硬直するのがわかる。 直後、彼女を飛び越えて、彼の顎に激しい跳び蹴りが容赦なく炸裂した。 「いい度胸じゃないの」 仰け反って転げ落ちた男を、裾から切り込みの入った長衣の女が見下ろしている。 「新しい女かい?人に仕事を頼んでおいて、お楽しみだね」 「中身、見えて…‥るっ」 言葉を発した彼の口が、顔面ごと即座に踏みつけられる。 美しい女であった。楚々としてはいないが、生命力に溢れていた。日に焼けた肌、大きな瞳が爛々と、男を捉えて輝いている。 状況の変化に少女は呆然として、片眼鏡の男と長衣の女とを見比べていた。 「足りないのは、俺の所為じゃないよ」 一方的な暴力であったが何事もなかったように、男は元の無表情で立ち上がると、大机へと戻っていく。 「いつも同じ薬が足りないのに?」 「知らないね」 両者の会話で薬という単語に、我に返った。 「あのね、あんた評判悪いんだから。無駄に叩かれても、痛いだけってのはわかってるでしょう?いい加減、慎重に行動しなさいよ」 「ご忠告痛み入るなぁ」 男の、人をくった返事のおかげで、女が大きく息を吸い込んだ会話の隙間に、少女が割り込んだ。 「薬って?ここで薬が手に入るのか」 まじまじと男女二人に、彼女の顔が見つめられる。 前へ |次へ |
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