《MUMEI》

「どうしても薬が欲しいんだ。何でもするから譲ってくれないか」
 ゆっくり女が腕を組む。何かを思案しているようで、ちらりと男に視線を向ける。
「あなた、愛人じゃないんだ?」
「違うよ」
 少女ではなく、男が答えた。
「何の薬か、わかって言っている訳?」
 一度、彼を睨んでから、女はふたたび彼女に向き直る。
「飛尾鳥夢っていう名の薬がこの町にあるはずだ」
 旅の途中で、万能薬は町でそう呼ばれていると教わった。薬と聞いて、思い込んだが違ったのだろうか。
「あなたに薬が必要には見えないけど」
「父が病気なんだ。万能薬だったら助けられるだろう?金はなくなってしまったけど、必ず払うから」
 言葉だけで相手を説得できるはずがない。だけど、これ以上どうすればいいというのだろう。
 少女は自分の不甲斐のなさに、両手を強く握り締めた。
「万能薬?」
「救世主、か」
 女に続いて男が何かに納得した様子で頷いている。
「確認するけど、発病しているのね?悪いけど、薬は先刻、売人に届けてしまったばかりで、今はないの」
 落胆した少女の体の力が、勢いで一気に抜ける。
「けど…‥」
 何かを企んだような顔の女が男に微笑む。

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