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《MUMEI》 「あんたが横流しした分が残っているはずね」 「だから俺じゃないって」 「そんなことわかってる」 彼女が室内をぐるりと見回すのを見て、彼は椅子を引くと、机に渋い顔で頬杖をついた。 「いるんでしょう？入ってきなさいよ」 女の呼びかけに男の反らした背後の壁が反転して、姿を現したのは、少女を窮地に陥れた案内人の男であった。 「着服した薬を出して。あるんでしょう？」 案内人が迷うように上目遣いで見たが、結局、懐から包みを一つ取り出して、女に渡す。 女と男と案内人、この三人の繋がりが、少女にはよくわからない。 なぜ案内人がここにいるのだろうか。 「言いたいことが色々あるんだろうと思うけど、まぁ君を売ったのも助けを呼んだのも同じ奴なんだよね。おかげで君は、今こうしていられるって訳で」 彼女の表情を読んだのか、許してやれとは言わないけどねとつけ加えて、なぜか男が案内人の弁明をする。姑息な手で、金を稼ごうとする案内人にも呆れるが、一番怪しげなのは、この男女二人組ではないだろうか。 「もちろん、報酬はいただくから」 爛々と輝く瞳で少女の目を捉えたまま、女は包みを彼女の手のひらに強く握らせる。 「あんた達は何者なんだ」 「彼は技術者。で、あたしはね、運び屋ってとこ」 物品から人物まで、あたしに運べぬものはないと豪語して、運び屋と自らを称した女は、しばらくどこかへと姿を消した。 前へ |次へ |
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