《MUMEI》

「羅刹兄ぃ、道楽も度が過ぎると命を落としますぜ」肩を貸し立ち上がらせてくれるアスラに、
「すまぬ。しかしこの
一瞬のときめきのために、生きる俺。そのために命が尽きるとも、本望と言うものよ・・・・」
反対側から肩を貸そうとするカーリーの手を、
「触るな!」邪険に払い除けると、痛みに顔を歪めながら、
「今度と言う今度は、この俺もあの世を覗きこんだぞ・・・・」
羅刹が言った。
カーリーが羅刹から払い除けられた手を押さえて、苦渋の表情を浮かべている。
「羅刹様・・・・」
神も人も恐れる死の女神の顔に浮かぶのは、恋する女のそれにまぎれもない。
アスラがやれやれと頭を振った。
「奴は紛れも無い勇者よ。丁重に墓を作って葬ってやるのだ」
すでに完全に動かない
白虎の上半身だけの遺体を見て、羅刹が言う。
すると、
「そうのんびりもしていられぬぞ」
水を刺すように上空からアポロンが言った。
「貴殿達も感じぬか?」
風が運んで来るものに、
不快そうに鼻にしわ寄せている。
アスラもくんくん鼻を鳴らすと、
「そう言やあ、さっきから気になってたが、何なんだこの胸糞悪い匂いは・・・・?どんどん強くなってきやがる?」
珍しくアポロンに同意して言った。
「パンドラの化け物達を父上が戦場に投入したのだ。もうすぐこの辺りまで、戦線が拡大して来るはずだ。何しろ暗黒の生存本能のままに進化した異形の生命体。敵味方の区別がつくとは思えぬ。我が父ながら、愚かしい判断としか思えん。
天津神三強神と呼ばれる貴殿達が、よもやあんな化け物達に遅れをとるとも思えぬが、ちと厄介な連中だぞ」
「けっ!あんなキモい奴らは見るのもごめんだ。羅刹兄ぃ、気持ちはわかりますが、そうとなったら早いところ、ここから引き上げましょうぜ」
「うむ・・・・」
アスラにもたれかかりながら、羅刹が不承不承うなづいた瞬間・・・・。



ゴウン・・・・
と、大破したヴィマーナの方向から音が鳴った。

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