《MUMEI》

だがその音よりも、その場にいる者達の注意を引き付ける現象が、周囲で発生していた。
「な、なんだ、こりゃ?!」アスラが異変に気付き、しきりに周りを見回す。羅刹も警戒するように鞘に納めた刀の柄に手をかける。
『それ』はまるで闇夜に乱舞する無数の蛍(ほたる)のように見えた。
暗黒の雲の下で陰欝に閉ざされた周囲の世界に、淡く輝く白い光球が無数に漂っている。それらは四人が見守るうちにも数を増やし、ゆらゆらと漂いながら一方向に流れ始めた。
「あれを見ろ・・・・」
無数の光球が向かう先をアポロンが指差す。
そこに大きく船腹の裂けたヴィマーナが屹立(きつりつ)していた。
だがアポロンが指差すのは、それよりもっと奥だ。裂け目から覗くヴィマーナの水晶エンジン。
ダイヤより硬質の強化ガラスの円筒の中で、今、
水晶球がまばゆく輝きながら、音も無く回転している。
蛍のように見える光球は次々とその水晶球に吸い込まれていく。
「こっちも見てよ」
今度はカーリーが周囲に無数に転がる人間達の屍を指差す。
屍の開いた口から光球がゆらりと漂い出て来ると、すでに星の数ほど膨れ上がっている光球に参加して、同じ方向に流され始めた。
「何が起きてるんだ?!」天狗丸も、思わずしがみついてくるダキニを受け止めながら呟く。
回転する水晶は光球を吸い込みながら、さらに輝きを増していた。
それらの光球のひとつに白虎の口から出てきたものがある事も、もはや誰も気付いてもいない。
その時、頭上の暗雲が形を変えて凝集していくと、厳(いか)めしく髭を生やした 老人の顔をレリーフのように浮き上がらせる。
「父上・・・・!」
アポロンの声も雲に擬態(ぎたい)していた天津神一族の最高権力者ゼウスには届いていないようだ。
ゼウスは苦しそうに額にしわを寄せると、
「わしの結界を破れる者がこの惑星上におるわけが無い!・・・・
貴様は何者だ?」
天にこだまする声を響かせ、
「お前は!お前はまさかーーっ!!」
眼をかっと見開いた次の瞬間、暗雲で形作られた顔面が真ん中から裂けると、一筋の光が天から差し込み、ヴィマーナの頂にある太陽親和水晶に突き刺さった。
たちまち二つの水晶が
連動して、激しい回転を相乗的に加速させる。
ヴィマーナの船体にひびが広がると、玉子の殻が割れるように砕け散った。
今や外界に剥き出しになった円柱が、神秘的な七色の光を辺りに撒き散らしている。
暗雲を割って天から伸びていた光の線が唐突に消えると、円柱から伸びた光が地上に放置された
白虎の屍の頭部に突き刺さった。
それは水晶エンジンが蓄えたエネルギーの全てを注ぎこんでいるかのように、誰の眼にも見えた。
事実、それを証明するかのように、上半身だけの白虎の肉体が見る見るうちに再生していく。
やがて肉体が完成すると、役目を果たしたように水晶エンジンは再び停止し、世界に陰欝な沈黙が 戻る。
呆気にとられている四人の神達の前で、白虎の肉体がむくりと上半身を起こすと、自分の意志と言うよりは、まるで何者かに動かされる操り人形のようにゆらりと立ち上がった。俯き眼を閉じる姿は夢遊病者のようだ。
「生・・・・生きかえったの?」
ダキニが天狗丸を見上げて聞くのと、
「またあの世にお戻り!」カーリーの何者をも切り裂く爪が、五本の光の筋となって白虎に向かい走るのが同時だった。

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