《MUMEI》

白虎の眼が不意に開くと、顔は俯いたまま眼だけが動いて、ぎろりと迫って来る光の筋を睨んだ。
口が開くと、
カーーッ!!と熱い呼気がほとばしり、恐ろしい硬度を誇る爪が一瞬のうちに気化していた。
「ちぃーっ!」
素早く元の場所に戻ったカーリーの爪先が、微かに小さな火をちろちろと走らせながら、黒い煙りを上げている。
白虎の顔にニヤーッと
不気味きわまりない笑顔が、ゆっくり広がる。
髪の毛が生き物のようにざわざわとうごめきながら立ち上がっていく。
笑顔とは裏腹に、眉間には彫刻刀で刻んだかのように、深い憤怒のしわが刻まれていた。
これがあの白虎か?と思うほどの人相の変化だ。
鬼相・・・・と呼ぶのがふさわしいだろう。
「違う・・・・。白虎じゃない!中身は別物だ!」天狗丸が思わず漏らした呟きを聞いたかどうか、
「何者だ、貴様?!」
アスラに支えられながらも羅刹が、銀色の刀身を抜き放つ。
白虎の肉体に宿った『それ』は邪悪としか言いようの無い笑みを浮かべると、
「スサノオ・・・・」
ため息でもつくように
漏らし、ゆらりと四人の神達に向かって足を踏み出す。
「皆、離れろーーっ!!」
アポロンの叫びと、
「でやぁーーっ!!」
必殺の太刀を閃かせる
羅刹の叫び、
四人の間を凄まじい熱が走り抜けるのが同時だった。
次の瞬間背中を向けてうっそり佇む『スサノオ』の後ろで、爆発現場のような惨状が展開していた。
「な・・な・・何じゃこりゃーーっ?!」
アスラが泣きそうな声で叫んでいる。
数メートル先に噴水のように血を噴き上げながら立っている自分の下半身を見れば、どんなに豪胆な奴でも叫ばずにいられないだろう。
「お・・・・俺の大事なちんこがあんな所にぃーーっ?!」
羅刹が
「ぐおおーーっ!」
と絶叫しながら両膝をつく。右肩から先が消失している。刀を握った右腕がすぐ側に転がっている。
カーリーが焼け焦げて
炭化した棒のような自分の右手首を呆然と見ていた。
一番離れていたアポロンがどうやら最も被害が少なくて済んだようだが、その衣服はスサノオが通り過ぎていった衝撃で、全て破れ裂けてしまったようだ。
そしてその露出した裸体は、豊満な乳房と股間に男性器を付けた両性具有であった。
しかし意外な事実に驚く者も、今は誰ひとりいない。当のアポロン自身も、恥も外聞もかなぐり捨てたかのように、
「がーーっ!」とひと声喚きながら、次の瞬間光球に変化し他の三強神を内部に取り込むと、大地に穴を穿(うが)ち逃走をはかる。後には煙りを縁から立ち上らせる穴が残るだけだった。
スサノオはその穴をちらりと無関心に眺めると、跡を追う様子も見せず、
両手を頭上いっばいに伸ばしてあくびをし、全身の筋肉をこきこきと鳴らした。自分自身の熱で服は蒸発し、全裸の体が見事な筋肉を浮かび上がらせている。筋肉は以前の白虎よりも数倍太くなっている。
その顔が血生臭い風を運んで来た戦場のほうへ向くと、また不気味な笑みが顔いっぱいに広がる。
まるでどこかに遊びにでも行くように、のんびりした様子で、そちらの方向へ歩きだした・・・・。

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