《MUMEI》 裁かれるのは「よう、受験者さん」 ユウゴは逃げ出して来た一人を背後から蹴り飛ばした。 「うわぁ」 なんともマヌケな悲鳴をあげて男はズザッと地面に顔を突っ込む。 「おお、痛そうだな。大丈夫か?」 そう言いつつ、さらにその脇腹を蹴り上げた。 「かっは……!!」 男は胃液を吐きながら仰向けになった。 意外と若い。 もしかすると、ユウゴと同じ歳かもしれない。 「就職活動か?お兄さん」 顔を覗き込みながらユウゴは口の端を上げて笑う。 男は苦しそうに片目を開けると「お、前……」と呻いた。 「…俺を知ってるのか?」 もちろん、ユウゴに覚えはない。 男はゴホっと咳き込んで言った。 「…見たぞ。あの映像」 「映像?」 ユウゴは少し考えて「ああ、あれか」と頷く。 おそらく、ヘリに向けて中指を立てた、あの時の映像だろう。 「わかってんのか?…こ、こんなことして、どうなるか」 「さあ?どうなんの?」 「もし、お前が生き残ったとしても、表彰なんてされない。プロジェクトを乱した重罪人として裁かれ、殺されるのさ」 「……へえ、そっか」 ユウゴは一旦言葉を切り、考えるように顎に手をやった。 「どっちにしても殺されるんなら、とことんやってやろうじゃねえか」 「……え」 「まずは手始めに、お前、死ね」 その瞬間、男の目が大きく見開かれた。 「ま、待て!まだ、謝れば許してもらえる。はやまるな!!な?」 ユウゴは男の腹を踏みつけた。 「黙れ。もう、ルールに従うのはやめたんだよ。お前らみたいなのがいるってわかったからな」 「……ど、どういう意味だ?」 痛そうに腹を抱えて丸まりながら男は聞く。 「つまり、裁かれるのはお前らだって言ってんだよ」 「待てよ!なあ」 「待てないな。もう俺たち頭の線、切れちまってるからさ」 ユウゴはそう言って、少し離れた場所へ視線を向けた。 そこではユキナが、スーツを着た女を追い詰めていた。 女は足に怪我をしているらしく、逃げようにも逃げられない様子だ。 ユキナの手にはスタンガンが握られている。 そういえば、あれの電気はどれくらいもつのだろうか。 そろそろ彼女にもちゃんとした武器を持たせなければいけない。 その隣ではサトシが銃を男に向けている。 相手は中年の強面な男だ。 体格差が大きいが、大丈夫だろうか。 ユウゴがついそんなことを思っていると、いつの間にか目の前の男が四つん這いになって逃げ出していた。 ユウゴは反射的に銃を取り出し、その背中に向けて撃ち込んだ。 男は短く叫び声をあげると、その場に俯せに倒れ、動かなくなった。 「…………次だ」 冷たくその体を見下ろしながら呟き、他のスーツを着た人間を探し始める。 辺りを見回しながらユウゴは、自分の中で何かが変わったのを感じていた。 前へ |次へ |
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