《MUMEI》

パンドラ次元から開放された魔生物達は、数百年ぶりに味わう殺戮の晩餐を満喫していた。
すでに戦場の帰趨(きすう)は結っしていた。
もはや国津神・人間連合軍は一方的な殲滅を待つだけのいけにえに過ぎないように見えた。
一匹のカマキリもどきの前足のカマには、団子のように人間の頭が串刺しにされて連なっている。
カマキリもどきは口元へそれを持っていくと、頭の一つを強靭な顎でかみ砕き、ムシャムシャと食べ始める。
粘糸でがんじがらめにされ、身動き出来ないアトランティスの人間兵士達が、その有様を恐怖に満ちた顔で見上げていた。
そこに避けようの無い
自分自身の運命を見せられたかのように。
別の場所では空中を飛び回るヒトデもどきの怪物に、頭上から粘液を浴びせられ、生きながら溶かされる苦痛に悲鳴を上げ、のたうちまわる者もいる。
どろどろになった死体は、ヒトデもどきの体の
中心にあるびっしり牙の並んだトンネルのような丸い口の中に、次々と吸い込まれていく。
「ぐわーーっ!」
断末魔の絶叫と共に、肉がこそげ落ち、顔面の半分が髑髏(どくろ)と化した男が、無念の形相で空を見上げて絶命した。
その開いた口元から蛍のように淡く光る球がふわふわ漂い出ると、浮遊を始める。
気がつくと、周囲には同じような過程を経(へ)て生み出された光球が無数に漂っている。
「ギギ?」
「ちゅみみーん」
怪物達が一瞬食事を忘れて、意志があるように
一方向へ流れていく光球の群れを、不審そうに見上げた。
光球の行く先には・・・・いつの間に現れたのだろうか?
そこに彼らから見ればエサに過ぎない人間がひとり、宙に仁王立ちで浮かぶ姿を認めて、ざわめきが一気に広がっていく。
その姿は「スサノオ」に紛れも無い。
スサノオの胸が深呼吸するように大きく膨(ふく)らみ、無数の光球を吸い込んでいる。
光球を体内に取り入れる度に、めきめきと体を軋ませて筋肉が増強されていった。

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