《MUMEI》

この、常に微笑を湛えた相手の顔をゆがませるにはどうすればいいのか
そんな事を不意に考えながら
小澤は喉の奥へと指を押し込み始めた
「……ぅあ゛」
最奥まで指を入れられ、流石の高宮も苦しさにもがく
苦痛に歪んだ顔
ソレを見る事がでえき満足したのか、指を引き抜いてやった
同時に咳込んだ高宮
小澤を見上げてきたその眼には僅かばかり涙が滲み
そして同時に、小澤へ僅かばかりの憎悪が見えた
互いが互いに向ける憎悪
けりが付くのは、一体いつになるのか
ソレはどちらにも解らないのが現実だ
「……キス、くれよ」
それでも小澤を求めずにはいられない高宮
己が内に沸き起こるその衝動は(あの時)と同じだった
小澤の家族を手に掛けた、あの時と
「……俺はあの時、アンタが欲しかったんだよ」
「は?」
「アンタなら、大丈夫だと思ったから」
だから全てを奪った
小澤の全てが自分へと向く様に
今更に語られる過去、その経緯
だが小澤にとってはそれこそ(今更)なのだ
どういう理由であったにしろ
失ってしまったものはもう戻らない
「……アンタは、優しそうだった。優しそうな、父親の顔してた。だから――」
「黙れ」
今は、これ以上聞きたくなどないと
小澤は高宮の鳩尾へと拳を打って入れる
瞬間、高宮の呼吸は止まり
そのまま崩れる様に意識を失った
「……今、この瞬間に殺せばいいのに」
ベッドへと横にしてやれば、背後から少女の声
小澤はゆるりそちらへと向いて直り、少女へと一瞥を向ける
「……お前、何が狙いだ?唯単純に俺等に殺し合いさえたい訳じゃねぇんだろ?」
「何故、そう思うの?」
「聞いてるのは俺だ。答えろ」
銃口を向けてやれば、だが少女は動じることはなく
小澤を凝視し始めた
「……前にも、行ったはずよ。私を殺せる鬼を、捜すためだって」
「死にたかったら首でも吊って勝手に死ね」
「それが出来たら、とっくの昔にやってるわ」
少女が不意に遠くを見つめる様に目線を上げる
その先に、何が見えているのか
小澤には知る術もなければ、知りたいとも思わなった
「つまり、だ。お前はお前の意思で死ぬ事は出来ないって事か?」
「そう。私に、意思はない。あるのは、(鬼囃子)だけ」
意味が、全く分からなかった
怪訝な顔を
浮かべて見せる小澤へ
少女は何を言う事もなく小澤の首へと腕を回すと
そのまま、小澤を胸元へと掻き抱いた
「……聞こえる?」
聞こえるのは、心臓の音ではなく、お囃子の鼓の音
何故、こんな音が聞こえるのか
疑問に感じながらも、その心地のいい音に聞き入る
「……この音があり続ける限り、私は私自身を殺せない」
私を殺せる鬼を捜すためだと、依然少女の言っていた言葉
段々と語られる事の葉が増えて行く一方
解らない事ばかりが増えて行く
「もうすぐ解るわ。もうすぐ、ね」
結局、詳しく語る事をしないまま、少女はその場を後に
その姿が完璧に見えなくなると、小澤は高宮の傍らへと腰を降ろし
まだあどけなさが残るその寝顔に嫌悪ばかりを抱いてしまっていた……

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