《MUMEI》
プロローグ
「うひょ〜! 壮観、壮観!!」

遮る物のない空間に、興奮した甲高い声が響いた。
それを耳にする者がいたなら、眉をひそめただろうが、今はどんなに叫んでも聞く者などいない。

眼下は一面、焼け野原。

瓦礫を飛び越えて、かろうじて残った石碑に片足をついて、器用にバランスをとる。
その姿は、見る者があれば異様に見えただろう。

だが、今は誰もいない。

頬を撫でる風さえ、焦げた匂いを含んで、広大な原を渡っていく。
以前に訪れたときは、一面に瓦の屋根の並んだ大地がどこまでも続いていた。その屋根の上を飛び越えながら、宙を舞う餌を捕まえては口に放りこんでいた。

あの時も、この場は良い食卓だったが、今はその比ではない。
鮮度が落ちてしまわないか、思わず心配してしまうほどだ。

そう思っている間にも、目の前をひらりと舞う。

赤い尾を引いて、まるで水の中で生きているそれと同じように。

黒く焦げた大地の風の中、360度見渡す焼け野原の宙を、泳ぎ回る金魚。

それが見える者など、いない。



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