《MUMEI》

段々と呑みこまれていく中
市原は身体の中、何かが蠢く様な奇妙な感覚に苛まれる
まるで内から肉を食い千切られるような激痛が直後
耐えきれず、市原は焔へと縋り付いた
「……中に、何か、居る。嫌だぁ!」
何とかしてほしい、助けてほしい
痛みと恐怖にわななく唇は言葉すら覚束なくなり
だが焔はソレに答えるかの様に表情を僅かに和らげた
「……それは多分、以前にお前が喰った影早の一部だろう。安心しろ、後で取ってやる」
「本、当か?」
「ああ。だから今は、僕と堕ちろ。影法師」
その言葉が、今は唯一の救い
市原は素直に頷くと、全てを焔へと凭れさせる
「……いい子だ」
後はもう、為すがまま
焔へと全てを委ね、市原は意識を手放した
崩れる様に落ちる市原の身体を受け取り、そのまま横抱きに
「……焔、それを何所に連れていくつもり?」
背後からの声
向いて直れば、そこにひなたの姿
あからさまに怪訝な表情をしてみせるひなたへ
焔は穏やかに笑みを浮かべて見せながら
「……境へ」
一言短く答えを返す
正面から顔を間近へと寄せ、焔はひなたの唇へ
触れるだけの口付けを交わしていた
「……何の、つもり?」
「僕は、境をなくします。貴方の、為に」
「私の、為?」
「ええ。境は言ってみれば檻。貴方は今、捕らわれているんですよ。日向という檻に」
「どういう、事?」
意味が分からない、と首を傾げるひなたへ
焔はそれ以上何を語る事もせず、市原を連れたまま影の中へと入っていく
「……僕は、常に貴方の事を考えている。全ての境が消えた解き、あなたは全てを手にする事が出来る」
ソレまで待っていろ、と続け焔は影の中へ
途中、焔を呼ぶひなたの声に、だが向いて直る事はしなった
「……安心して下さい。僕はあなたに仇成す事はしませんよ。決してね」
「……そう」
「僕が、信じられませんか?」
「信じられないし、私は誰も信じない」
「何故?」
「……陽の光も影も、常に同じではないからよ」
「……そう、ですね。だが、それも直に終わる」
焔は一方的に話を終えるとまた影の中へと身を沈ませる
その後姿を消えるまで眺め、ひなたは僅かに溜息をついた
「……境が無くなってしまえば私が私で居られなくなる。だから――」
陽は陽の元へに、影はヒトの元に
何かを求めるかの様に手を伸ばし
だがその手は何を掴む事も出来なかった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫