《MUMEI》
決意
夜の東京。 時は九時を回る少し前。

一人の少女がネオン街と外灯の光に照らされながら、黒く長い髪と制服が乱れるのを気にすることなく走っていく。


「刻限までに間に合わなかったらどうしよう」


息を切らしながら少女は焦りの声を上げた。

少女――桜井 みこの家は元名家だった。不況に負け、落ちぶれたにも関わらず、名家としてのプライドを棄てず、一族総出で名を上げるため必死だった。

もちろん、桜井家に生まれたみこも例外無くその渦の中に入れられた。そのため幼い頃から様々な教養を強制的にさせられていた。

幼かったみこは、親の言うことを素直に聞いていたが、大きくなるにつれ、厳しい両親に少しずつ不信感を感じ始めた。
中学に入った頃、反抗期になり勉強を怠けて友人と遊び始めた。結果、今まで首位を取っていた成績はガクッと下がった。

親は当然怒り、納屋に閉じ込めた。賢かった私は簡単に納屋から出てのは容易だった。窓から親の様子を伺って部屋に行こうとして、親のいる居間の窓に近づいたが中から聞こえた言葉に耳を疑った。

「成績を落とすなんて一族の恥だわ」

「それも名家の子ではなく庶民と遊んでいたなんて…もっと社交に出すべきだったな」

「貴方、いっそのこと、あの子を棄てて、新しく養子を入れたらどう?」
「今更、一から育てるには金が勿体無い。あの子をもっと厳しくしたほうが良いだろう。」

「それもそうね。」

両親の信じられない会話に思わずその場に座り込んだ。


「やっぱり…大事なのは私よりお金なんだね」


その時から私は決意した。高校を卒業したら家を出てやる、と―

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