《MUMEI》
乗り過ごし
《東初桜ー、東初桜ー、お出口は左側です》

しばらくして侑が降りる駅に着いた。

プシュッと空気をもらしてドアが開く。

でもどうしたことか、ポールにもたれた侑は動かなかった。

「侑くん?着いたよ?」

横から覗き込んでみると、侑は目を閉じていた。

立ったまま寝っちゃてるよこの人!


《まもなくドアが閉まりまぁす》


アナウンスを聞いて、芹奈は慌てて

「起きてっ、ドア閉まっちゃうよー!」

とペシペシ侑の背中を叩いた。

それでも侑は起きない。

力いっぱい叩いても、まだ起きない。

そのうち「バッタン」とドアが閉まって

あーあ……と芹奈はため息をついた。

ドアが閉まってからやっと侑は目を開けて

窓の外を見ると「あ、やべ」と呟いた。

「寝過ごした」

「ごめん、一応は起こしたんだけど」

「あ、そうなんだ。悪い、ありがと」

「いえ、お役に立てず、すいません……」

寝過ごしたのにまったく応じてない侑は

芹奈を振り返って静かに言った。

「じゃ、乗り過ごしたついでに送ってく」

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