《MUMEI》

巨大な穴の縁から障気を立ち上らせながら、ナイアーラトテップが這い出して来る。
それにつれて、パンドラの怪物達のパニックは抑えきれないものとなっていった。
「ギャーース!!」
「ちゅみみーー!!」
スサノオに追われていた時の倍くらいの恐怖心を現して、穴に背中を向けて逃げ出していく。
前方で待ち構えるスサノオに何匹かの怪物が爆裂させられたが、それも眼中に無いようだった。
スサノオは一瞬で殺してくれる。
だがナイアーラトテップに食われれば、胃袋の中でじわじわと消化されていく間に、たっぷりと
恐怖の感情のエキスを吸いとられるのだ。
どちらの死に方のほうがマシか?
と言う、怪物達にとってはまさしく究極の選択であった。
天津神達に囚われた時はカマキリもどき達の王に化けていたナイアーラトテップも、今は擬態の必要がないので、本来あるべき姿に戻っていた。
正体を現した時の知的生命体の凄まじい恐怖(時には発狂する者もいる)の反応には、ナイアーラトテップも慣れっこになっていたが、「奇妙な気を放つ奴」は違っていた。
俺の姿が見えていないのか?
それとも単に状況が理解出来ていない馬鹿なのか?
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う虫達の中で、凝然(ぎょうぜん)と佇む姿は、一種のKY野郎だ。
死者の魂を己の血肉に変えて、身長三メートル・・・・人間の中では巨人と言って良いほど成長したスサノオも、数百メートルの巨体を持つナイアーラトテップから見れば、他のエサになる虫達と変わらないように見える。
もちろん神の世界の戦いにおいて、見かけの大小など当てにはならない。
だが違ったパターンの「気」を発散しているだけで、そいつがずば抜けて強い奴とも思えなかった。
今そいつの精神には脱力感のようなものが感じられたが、ナイアーラトテップが地上に姿を現すにつれて、純粋な好奇心を発散し始めた。
(やはり妙な奴だ・・・・)
ナイアーラトテップはスサノオを捕らえるために、無数にある触手のうちの一本をマッハのスピードで伸ばしていく。

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