《MUMEI》
歩調
一瞬きょとんとして

「――えっ!?」とあげた声は裏返ってしまった。

「いーよ、そんなっ!」

「俺の肩につかまって歩けば少しは楽でしょ?
どうせ俺は乗り過ごしたついでだし」


そうしなよ、と言いながら濃い茶色の目が見つめてくる。

しばらく迷ってから

はい、と芹奈は小さな声で答えた。

まだ信じられなくて、これ夢かな?と思う。

侑くんに送ってもらえるなんて、しかも


しかも肩まで貸してもらってるなんて―――。


侑と一緒に電車を降りて、芹奈の家へ向かって

住宅街を歩いているうちに

空はすっかり暗くなって星が点々と小さな光をともした。


ちょうど額と同じ高さにある侑の肩に

ちょんと手をのせたまま

何を話せばいいのかわからなくて芹奈は黙っていた。

侑も無言で歩く。でも痛めた芹奈の足を気遣って

歩調をゆるめてくれているのはわかった。

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