《MUMEI》 初めて感じる気持ち『恋ってね』 ゆっくりと遠ざかる背中を見つめながら 芹奈は自分の胸にそっと手を当てた。 『胸がキューってなって、切なくなって 意味もなく泣きたくなったり』 胸がしめつけられる。 風に小さくゆれる黒い髪や、触れ合った手の暖かさ 悪戯っ子みたいな笑顔――彼のことばかり思い浮かんで 悲しくもないのに涙が滲んでくる。 『胸に何か刺さったみたいに苦しくて、けどそれが嫌じゃないの』 胸のずっと奥、ふれようとしても ふれられない場所が苦しくて、苦しくて でもそれが嫌じゃない。 こうして甘苦しい痛みの中で いつまでも彼のことを考えていたかった。 ああ、そうなんだ。やっとわかった、みんなの言ってた気持ち。 これが恋なんだ。 私は、侑くんに恋をしたんだ。 前へ |次へ |
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