《MUMEI》

相当強い酒なのか、喉が焼ける様な感覚
一気に視界が歪み、木橋はカウンターに突っ伏してしまう
「……お前、態と飲ませたろ?」
その様を一部始終見ていた店の店主
呆れた様な表情を相手へと向けてやれば
相手は何を返す訳でもなく、唯笑みを浮かべて見せるだけ
「で?そいつ、どうするつもりだ?」
「んー。お持ち帰り、だな」
「はぁ?お前、何考えてんだよ、そんな餓鬼」
怪訝なソレへと表情を変えた店主へ
相手はやはり何を返すでもなく木橋を抱え上げる
「じゃ、色々誤魔化しといてな」
「……程々にしとけよ。犯罪者」
向けられる悪態に僅かな笑みを浮かべて返し、相手はその場を後に
車へと木橋を連れ込むと何処かへと走り出す
その揺れに目を覚ました木橋ははっきりとしない頭で状況理解を試み
そして今自分がついさっき会ったばかりの相手の車に乗せられて居るのだと理解する
車を運転する相手の横顔をつい凝視してしまえば
その横顔は木橋に身近な人物を思い出させる
「……別に俺なんかほっとけばいいのに」
独り言のつもりで呟いたソレに、答えるかの様に頭へと触れてくる左手
何を言う事もしないまま、まるで子供をあやすかの様に何度も撫でてきた
「何でそんな突っ張ってるかな。君は」
仕方がないといった風に肩を揺らしながら、相手は車を徐に停車させる
着いたソコはとあるマンションで
「何だよ。此処」
つい、問うてしまっていた
だが相手は返答するでもなく、木橋を横抱きにし車を降り
そのままマンションの中へ
「無防備過ぎるね」
「は?」
一体何の事かを問うより先に
木橋はゆるりベッドへと降ろされる
アルコールの所為か、すぐにでも寝に落ちそうになる木橋
後もう少しで完璧に寝入りそうになった、次の瞬間
「……油断した、君が悪い」
相手の呟きを耳元で聞き、そちらへとつい向いて直ってしまえば
「――っ!?」
唐突に唇を塞がれた
最初触れるだけのそれが段々と深くなり
触れ合っている其処から互いの境が無くなってしまいそうだ、と
そんな感覚に陥った
「……や、め」
「どうして?」
「……何、か、恐い」
あからさまに恐怖に身体を震わせる木橋
余りの怯え様に相手は僅かに溜息を付き、額へと触れるだけのキスをする
「他人を信じるのが、そんなに恐い?」
唐突な質問
行き成り過ぎるソレに、恐怖に動揺していた木橋は答えて返す事が出来ず
其処まで怯えさせてしまったのか、と
相手は困った様な笑みを浮かべ木橋から離れた
「どうすれば、君の心の中に入れるんだろうね」
今日会ったばかりの人間にいきなり何を言い出すのか
木橋は戸惑いの様なものを覚えながら相手をやる
「……アンタ、俺をどうしたいんだよ?」
その真意が分からず、問うてみれば
相手は何を返す事もせず立ち上がりキッチンへ
グラスに注いだ水を木橋へと手渡してきた
「今はまだ内緒。君とは、多分また会えるから」
また会える
そんな確証はない筈なのに
相手はソレを確信しているかの様に木橋へと片眼を閉じて笑みを浮かべて見せた
「……誰が、二度と会うか!馬ー鹿!」
訳が分からなくなり、取り敢えずは水を飲み干すとその場を後に
しようと踵を返した途端
未だ酔いがさめていないのか、木橋の身体が頼りなくふらついた
「まだ無理そうだね。何だったら止まっていく?」
「……今の状況で俺が頷くとでも思ってんのか?」
何とか睨みつけてやれば相手は苦笑を浮かべ
送っていくから、と木橋を横抱きに抱え上げる
「ちょっ……アンタ、何すんだよ!降ろせって!」
「駄目だよ。そんなふらついてるのに。責任もって、ちゃんと送るから」
端から木橋の返答を聞く気など無かったのか
相手はそのまま車へと歩いて行く
抱き抱え上げられたのなんていつ位振りだろう、と
ふわりふわりゆれる感覚の中、そんな事を木橋は不意に考える
そして相手の横顔をまじまじ眺めていると、相手がその視線に気づき
「何か、俺の顔に付いてる?」
態々木橋の顔を覗き込みながら問う事をしてきた
間近に迫ってきた顔にどうしてか照れたと同時にうろたえ始め
木橋はあからさまに視線をそらしてしまう
「……やっぱり、君は可愛いな」

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