《MUMEI》

「話すと言ってもそんなに大した事じゃないよ」
「それでも構わない」
千里の物言いは相変わらず愛想が無い。
ま、不器用なだけだと思うけど。
―蒔田さんは静かに語り始める。
「私には、愛する人がいた。とても綺麗な女性だったよ…私には勿体無いくらいに。…彼女はこの村の在り方に疑問を持っていたんだ。だから」

「殺されてしまった。」

…………あぁ、成程。つまり蒔田さんは彼女の遺志を継いでるのか。
この村の在り方…ね。
やっぱり何かあるのか。
「それだけの話さ、下らないだろう?」
確かに…下らない。
これは言うべきでは無いけど。
多分、千里も同じ事考えてるだろうな。
まぁいいや
「えっと…質問していいですか?」
「あぁ、構わないよ」
「この村、何かおかしいですよね?その彼女さんは…どこに疑問を持ったんですか?」
これが解らないと仕事にならないからね。
「…っそれは……」
言いづらそうに顔を背ける蒔田さん。
その時、チラッと窓の外を見た。
「人が死んでるなら尚更だ。良いのか?このままだとまた死人が出るかもしれないぞ」
千里はそれを切り捨てる。
「………いや…しかし…村の人間でない君達には…………」
「話すべきではない≠ナすか。」
「…………!」
もう充分だろう。
ここに泊めてもらう理由は無くなったな。
「わざわざすまなかったな。」
そう言って千里は席を立つ。
「お話、聞けて良かったです。お邪魔しました。」
僕はそれに続く。
昼食ぐらいはご馳走してほしかったな。
…どうでもいいけど。
「え、ちょ…待って。私が君達に何かしていたら謝るから、何故…?」
優しいなぁ…いや、偽善か。
貴方はなにもしてないよ、蒔田さん。
けどね?
「ここの仕事を早急に終わらせなきゃいけない事情が出来たんでな。早く終わらせて帰って酒飲む。」
「そういうことです」
どういうことだ。
自分の発言に思わず心の中で突っ込む。
バタンッ

「結局野宿かぁ…」
「嫌なら蒔田んとこに泊まれよ。」
「それも嫌だなぁ」
「じゃあ諦めろ。」
言われなくてもそうするよ。
さぁて…

真実を暴こうか。

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