《MUMEI》
屋上
逃げてしまいたくなる。

だけど逃げても何にもならない

ちゃんと言わなくちゃいけない。

「……わかった」

芹奈はうなずいて、大翔の後に続いた。

後ろでみんなが「わー、いよいよかなー」

「やーん、ドキドキするー」

「見に行っちゃおーか」

「やめなよ、そんなの」

と無邪気な声でひそひそ言うのが聞こえた。


大翔は屋上にむかっていた。

背中を追って階段を一段のぼるたび

緊張に体が硬くなって、息が苦しくなった。

大翔が屋上のドアを押し開けると

清々しい風が吹きこんで大翔の茶色の髪をゆらし


次に芹奈の肩に届く程度の髪をゆらした。

背の高い金網にぐるりと囲まれた屋上には

ほかに誰もいなかった。

無言で歩いていた大翔は、やがて足を止めて

芹奈にむき直った。

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