《MUMEI》
心の痛み
「大翔、ご―――」

言葉の続きは、喉の奥でしぼんだ。

大翔に突然、驚くほどの力で両肩をつかまれて。

大翔の指先が肩に食いこんで、痛い。

固まってしまった芹奈の胸の前に頭をたれて

大翔は少しかすれた声で言った。

「――返事は今じゃなくていいから
もう少しちゃんと考えて。それからでいいから!」


大翔は背中を向けると、足早に屋上を出ていった。

音をたてて扉が閉まった後、カクンと膝が折れて

芹奈はコンクリートの床にへたりこんだ。

緊張で指先が冷たくなっている。

――自分がその立場になるまで考えたこともなかった。

誰かの想いをこめた告白を断るのが

こんなにもエネルギーを使うのだということ。

人を傷つけるのは、こんなにも怖いのだということ。


侑は、何度こんな気持ちになたんだろう。

自分を好きだと言ってくれる人の想いを断って

何回こんな胸の痛い思いをしたんだろう。

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