《MUMEI》
もしも……
侑がいた。次は移動教室なんだろう

筆記用具を持って、階段を下りようとしている。

侑は筆記用具を持った手を上げた。

親しい友達にそうするみたいに。

唇が震えた。でも何も言えない。

芹奈はうつむいて侑から顔を隠し、手を上げた。

「……どもっ」

「じゃーね」

そして侑は、ゆっくりと階段下りていった。

目が合うだけで泣きたくなって

ほんの短い会話に胸がつまって

―――この想いが錯覚だったら、どんなに楽だろう。


そして、大翔が想ってくれているように自分も大翔を好きだったら。

侑を見るたびにこみあげてくるこの気持ちが

今この瞬間冷めてくれたら、どんなに。

くっ、と腕を引かれた。

驚いて顔を上げると―――階段を下りていったはずの侑がいた。

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