《MUMEI》

 






「うっっるせェ!!!」







ボカッ!!




「どぅふッ!」

「兄上!」













女だろうと殴る遊佐さん。















「今は虫のいどころが悪ィんだ少しは黙ってろアホ」

「あ、…………兄上って、名字違うじゃないですか」









そう、花ちゃんは井村とゆう姓、名字が違うのに何故兄上?












「私のような大名は一家ではなく一族で構成され住んでるので静さんは私の父の弟さんの長男、つまり従兄弟です。なので私は兄上と呼んでいます」

「コイツが宗家で俺は分家だ」

「ややこしッ。呼び方兄上じゃなくてもよくない?」

「私、兄が欲しかったんですが弟しかいないので。だから静さんを兄上と読んでいるんです」

「おい、下の名前で呼ぶな」

「いいじゃないですか」










ニコリと笑う花ちゃんに負けた遊佐さんはばつが悪そうに目線をずらし舌打ちをする。




ほっほー…

妹みたいな花ちゃんには弱いのか。シスコンだね
















「で、用はなんだ」








遊佐さんが話をきりだす。

すると花ちゃんは思い出したかのように











「そうでしたそうでした、忘れるとこだった。コレ、お萩作ったんで皆で食べて下さい」

「え―!?マジで?ラッキー☆」

「ラッキー?」

「気にすんなコイツ専門の言葉だ」

「あたしあんこすきなんだよね―お萩とかテンション上がる―!ありがと花ちゃーん」











花ちゃんから風呂敷に包まれた重箱を手にしてハイテンションのまま奥に戻って行く…

遊佐は、「一人で食うんじゃねーぞ!」と一言注意した。













「アハハ、相変わらず賑やかな場所ですねー」






クスクス口に手をあてがって笑う花の右手にはもうひとつ小さな風呂敷を持っていた。

遊佐は静にそれに目をやりながら












「それァ誰宛だ?」

「…………それとは?」

「わかってんだろ、右手のそれだ」

「誰宛かなんてわかってるでしょ?」

「……………………………」

「あの人も甘いの好きだったから」










ただ真っ直ぐ呟くように話す花に苦い顔を浮かべる遊佐、

ぎゅっ、とやるせない気持ちを丸め込むかのように拳を強く握る。









「………は、「私、そろそろ帰りますね。お昼だし」

「なら送っていく」

「大丈夫です。一人で、帰りたいので…」







無理に笑う花、俺は「わかった」と言ってアイツの小さな背中を見送ることしか出来なかった。


あんなに小せぇ身体なのにアイツの背負う悲しみは――――――重すぎる。









なぁ、




アイツ、まだお前のこと忘れられねぇみてぇだ……。













「俺はどうすることも出来やしねぇよ…………里見」








渇いた言葉が風に乗って玄関から出てそして消える…………。










 

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