《MUMEI》

(あ・・・・あれはもしやーっ?!)
黒雲に姿を変え下界を見下ろすゼウスは、ナイアーラトテップの姿に、激しい戦慄を覚えていた。
(いや・・・・そんな筈が無い。あ奴らの眷属がこの辺境の銀河の恒星系に現れるのは、まだ数億年も先の筈じゃ!
しかし・・・・!この
圧倒的に凶々しい妖気・・・・、あ奴らの眷属以外には考えられぬ!
何故じゃーっ?!)
その時ふとゼウスの頭の中を過ぎるものがあった。
(まさかーっ?!虫けらに姿を変えて、このゼウスをたばかっていたと言うのかーーっ?!)
暗黒の深淵を覗かせる穴から、姿を見せたナイアーラトテップは、遥か
上空から俯瞰すると、巨大な黒い円錐状の山に、無数の触手が林のようにうねうねとうごめいているように見える。
それら無数の触手が伸縮自在に伸び縮みして、逃げまどう虫の化け物達を捕まえては、自らの元へ引き寄せている。
触手が化け物達を運んで行く先・・・・、ナイアーラトテップの体の表面には、フジツボのようにびっしりと、無数の丸い口が並んでいた。牙を生やした口は、地球人には理解出来ない言語で罵声を吐き散らすものがいるかと思えば、けたたましく笑い声を上げるもの、よだれを垂らして呪いの言葉をぶつぶつ呟くものの、さらには悲しい歌を意外な美声で歌っているものなど、それぞれが別の意識を持つかのように、でたらめな事をしている。
そうした幾千、幾万とも知れぬ口の間に、血走った眼球が、これもまた、それぞれがでたらめな方向を、絶え間無くギョロギョロと監視していた。
それは何と言う悍(おぞ)ましい姿であろうか?
もし仮に天才的な画家が、その超絶した技巧をそのままに、自らの精神が崩壊していく様を描いたとしたなら、こんな生物を描くかも知れない。
いずれにしろそれは、どこまでも知性を持つ者の理解を拒む姿に他ならなかった。

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