《MUMEI》

地上でうごめくナイアーラトテップの上空で、
黒雲が一点に凝集していくと、右手に杖を握る恰幅の良い老人の姿へと変化(へんげ)していった。天津神一族最高にして、最強の超能力と権力を持つと言われる大神ゼウス。
現在地球上で対等の力を持つのは、国津神一族の長である、大国主ルシフェルのみであると言われる、その厳(いか)めしい顔には、今、焦躁感による脂汗がべっとりと浮かんでいる。
その時、
「大将首、射ちとったりぃーーっ!」
蝙蝠のような翼を背中から生やしたガーゴイル族の若者が、中世の騎士が持つような突撃槍を腰だめに構えて、ゼウスの横あいから突進して来た。
ゼウスが一瞥した瞬間、雷撃で黒焦げになり、功を焦った若い戦士の死体は、地上へ墜落していく。
だが今のゼウスには、わずかばかりの関心も無い出来事のようだ。
それはゼウスの数メートル横で滞空している、
天狗丸とダキニも同様だった。
「何じゃ、ありゃ?!カマキリどもの親分か?!」
「怖いー」
その二人の声に答えるかのように、大神ゼウスと閻魔大王ハデスが、ほぼ同時に重々しく呟いた。
「ナイアーラトテップ・・・・!永劫の時の流れの中をさ迷い、宇宙に生きるあらゆる者達の恐怖を喰らう者!」
「えーっ?!ナンマイダーニョロロンペー?!」
思わず叫ぶ天狗丸を、ハデスが、
「たわけ者めが。ナイアーラトテップと言っとるだろうがよ」
「えー?!軟体ラクダ、臀部ー?」
「ノン、ノン、ノン!
ナイアーラトテップだから」
「お祖父様、天狗ちゃん見て!!」
その二人の言い争いを制して、ダキニが指指す方を見下ろすと、ナイアーラトテップの触手の一本が、ちょうどスサノオの体に、大蛇が獲物を捕らえる時のように巻きつくところだった。

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