《MUMEI》

「イーチ、ニーイ、サーン、シーイ・・・・」
濛々(もうもう)と立ち込める湯気の中、小学六年生の悟が、肩までバスタブのお湯に浸(つ)かって、数をかぞえている。その顔は茹でダコのように赤らんでいた。
「ちゃんと、五十までかぞえるのよ」
浴室の壁に反響して、中学一年生の姉、優里(ゆうり)の声が響いた。
「このあいだみたいに、十五の次に二十とかゴマカしたりしたら、もう一回最初から数え直させるわよ」
あんたドエスかよ?
ごまかすつもりは全く無かったが、熱さであまりにも意識が朦朧(もうろう)としていた為に、ついつい数え間違えてしまったのだ。
それをあんたってヒトは・・・・。
だが口答えするつもりは無い。
口喧嘩になっても言い負かされるのは、いつも自分のほうだと相場が決まっている。
「全く口では男は女に敵(かな)わんからな」
父がいつも母に対して言ってる事を、悟自身も信じこんでいた。
今もすでに、頭の中が朦朧としてきている。
これじゃ・・・・また、数え間違える可能性「大」だな。
悟の眼の前で、湯気に霞んだ優里の白い裸身が、ぼんやりと浮かび上がっている。
今、姉はタオルに石鹸を塗りつけて、ゴシゴシと体にこすりつけているところだ。
何の事は無い。
見慣れた、慣れ親しんだ風景。
だが・・・・最近何か違う。以前と比べて姉の体に丸みが感じられると言うか、ぶっちゃけ動作の隅々に女らしさみたいなものが感じられるのだ。
(そう言えばオッパイも前と比べると、随分腫れてきているような・・・・)
その頃の優里はまだ中一だと言うのに、すでにBカップくらいはあった。
そんな優里が白い裸身に石鹸をこすりつけていく様子を、小六の悟はまだ何の邪心も無く、何気に観察している。

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